【Beyond the Spotlight】コベルコ神戸スティーラーズ ジェームズ・マーティン ヘッドアナリスト
アナリストとして強い神戸スティーラーズ復活に貢献する
2018-2019シーズンに来日し、7年目のシーズンに突入した。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
アナリストは陰のコーチというべき存在
「シンプルに言うと、練習や試合の映像をボールキャリー、スクラム、ラインアウトなど、シーンごとにクリップしていって、その映像を分析し数字を出してデータ化したものをコーチたちに提供するのが仕事です。コーチはその情報を試合に向けての準備や選手へのフィードバックにいかしていきます」
――コーチ陣とかかわることが多いんですね。
「そうですね。アナリストはコーチと良い関係を築くことが重要になってきます。コーチたちからどういうデータが欲しいのか言ってもらうことも大切ですし、我々アナリストはデータを基にこうした方がいいのではないかと戦術を提案していくこともあります。アナリストは、コーチという肩書きはついていないですが、陰のコーチというべき存在だと思っています。多くの試合を見ているからこそ、客観的な視点で意見が言えますからね。コーチたちもアナリストのことをただパソコンの前で分析するだけのスタッフとは思っていないですし、コーチの1人として扱ってくれています。常にコーチたちとはミーティングして、お互いに意見を交わしながら良いものを生み出そうとしています」
――アナリストから見たデイブ・レニーディレクターオブラグビー/ヘッドコーチはどういうコーチですか。
「何を求めているのか、明確にしてくれるので、アナリストとしては仕事がやりやすいですね。それにアナリストが出したデータをラグビーにも落とし込んでくれますし、我々の意見も尊重してくれます。仕事のやりがいを感じますね」
――選手たちとのかかわりはあるのでしょうか。
「我々のデータは選手のスキル向上のためでもあります。映像のこの部分を見たらいいよと教えたり、さまざまな情報を与えたりしています。特にキャプテンを含めたリーダーグループとは戦術面においてよくミーティングをしています」
――チームには3人のアナリストがいますが、それぞれの役割は。
「3人でチームとして動くこともありますし、山家(壮貴)、アラン(・ホッジ)と私、それぞれ担当するコーチがいるなど、個人が受け持っている業務もあります。それに加えて、私はヘッドアナリストですので、山家(壮貴)とホッジという2人のアナリストの成長を見守ることも仕事になりますね」
コベルコ神戸スティーラーズのアナリストチーム。左から山家 壮貴アナリスト、ジェームズ・マーティンヘッドアナリスト、アラン・ホッジアナリスト。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
試合に勝つことが一番の喜び
「まずは数字の精度。数字を出すことが仕事ですので、その数字が間違っていたら元も子もありませんし、コーチから信頼を失うことになります。正確な数字を出した上でコーチにこうしたらどうかと提案する。そのためには自分の信じたことを伝える能力が重要です。また、分析から得られた情報や数字から、いかに革新的な考えができるのかも大事だと思います。それが新しい戦術にもつながりますから」
――アナリストとして達成感を感じるのはどういう時でしょうか。
「やはり試合に勝つことが一番の喜びであり、達成感を感じます。試合前から対戦相手の分析をして、相手にはこういう傾向があるとコーチたちに伝えて、ここにチャンスがあるので、こういうゲームプランで進めようという話をしています。自分たちが分析した内容がゲームプランにいかされて、選手がそれを実行してくれて勝利した時の喜びは格別です」
――アナリストはラグビー経験者でないとなれないものなのでしょうか。
「プレーした経験がなくてもなれますが、知識は必要ですね。私自身は5歳からラグビーをしていました。ただ、プロを目指すほどは真剣に取り組んでいなくて、アナリストになりました(笑)」
――アナリストを目指したきっかけを教えてください。
「最初からアナリストになりたいとは思っておらず、高校卒業後、経済を学ぼうと大学に進んだのですが、途中でスポーツにかかわる仕事をしたいと考えが変わり、スポーツ関係の学部に転部しました。そこでクルセイダーズでインターンとしてビデオアナリストをする機会に恵まれたんです。ワールドクラスの選手たちと一緒に仕事ができることに幸せを感じましたし、もともと数字を扱うことが得意だったこともあり、アナリストを自分の仕事にしたいと思うようになりました。2年間、インターンとして働き、その後、正式にクルセイダーズのアシスタントアナリストとNPCのカンタベリーでヘッドアナリストとしてフルタイムで活動することになりました」
来日当初は環境面で苦労も
「言葉の壁はありましたが、外国人選手、スタッフが多いこともあり、チームにはすぐに馴染むことができました。ただ、アナリストとして仕事をする環境面ではニュージーランドの方が進んでいますから、来日した当初はニュージーランドのチームでは当然あるべきものがなくて苦労しました。1つ例を挙げると、映像のアングルです。ニュージーランドでは4アングルあるのですが、日本ではJスポーツから提供されるものが1、2アングルしかなくて、自分たちで撮影する必要がありました。今では4アングルの映像をJスポーツから提供してもらったりしていますが、最初の頃は大変でしたね。でも、チームがすぐに優勝という結果を出すことができましたし、苦労も吹き飛びました」
――ドローンが導入されるなど、アナリストの仕事はどんどん進化しているように思うのですが。
「そうですね。機械だけでなく、ソフトウェアもどんどん良いものが出ているので、それに対応していかなければいけません。そういう意味ではアナリストにはテクノロジー系が得意な人間とラグビーの戦略面に強い人間の2つのタイプにわかれるのですが、僕は比較的どちらも得意でバランスの取れたアナリストだと思います。1つのやり方に固執しないで、なんでも取り入れる柔軟性が僕の強みであると思いますね」
――常にラグビーのことを考えているのでしょうか。
「シーズン中はずっとラグビーの映像を見て、数値化して、という作業を繰り返しているので、オフシーズンは一度リセットしてラグビーのことを考えない時間を作るようにはしています。そうすることで、また新しいアイデアが浮かんできますからね」
――シーズン中のリフレッシュ方法は。
「日々パソコンの前に座って作業をしているので、ジムでトレーニングしたり、ランニングしたり、体を動かすことでリフレッシュしています。時々、六甲山に登ることもありますね」
トップリーグ2018-2019以来の優勝を目指して
「エキサイティングなラグビーをしようとするマインドセットを持つようになり、すべてのスタッツが向上しました。レンズ体制1年目ということで慣れ親しんだシステムから多くの面で変化があった中、昨シーズンは5位ともう少しでプレーオフに手が届くところまで成長できたことは良かったです。昨シーズン土台を構築できたので、今シーズンはさらにステップアップしていけるようにしていきたいですね」
――アナリストとして今シーズンの目標は。
「2018-2019の優勝から随分と時間が経ってしまいました。アナリストとして、もう一度、強い神戸スティーラーズを復活させたいという想いが強いです。選手、ほかのアナリストの成長を手助けし、コーチたちが良いラグビーができるようサポートしてチームの優勝に貢献する。それが大きな目標ですね」
――では最後にスティールメイツにメッセージをお願いします。
「試合会場では常にスタンドでパソコンを広げて作業をしています。選手が良いプレーをした時、チームが苦しい時、スティールメイツの声援がよく聞こえて。選手と同じように皆さんの声は、私たちスタッフにとっても励みになっています。今シーズンも熱い応援をよろしくお願いします!」
日本に来て今年で7年目。この間にはコロナ禍の経験も。
「最初の2シーズンは優勝もできたし良かったのですが、その後、チームがなかなか本来の姿に戻れなくて苦しかったです。けど、レンズ体制となり、明るい兆しが見えてきました」
強い神戸スティーラーズ復活に貢献すると力を込めるマーティンヘッドアナリスト。チームの勝利の裏には、アナリストたちの地道な作業と努力があることを心に留めておいてほしい。
取材・文/山本 暁子(チームライター)
チームにとって欠かすことができない存在であるアナリスト。データを駆使し、チームを勝利へと導く。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
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