好調時の感覚が「バチっ」と戻り始めた錦織圭 6年ぶりのジャパンOPでサプライズを狙う

秋山英宏

目下の目標はランキングポイントの積み上げ

前回ジャパンOPに出場したのは2018年大会。このときは決勝でダニール・メドベージェフに敗れ準優勝に終わった。再び日本の観客の前で輝けるか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 錦織の世界ランキングは200位。100位以内に戻ることが当面の目標だ。シーズン末までにランキングを2桁に戻せば、来年の全豪オープンに本戦から出場できる見通しが立つ。上位選手の一員として来シーズンを戦うために、キャリアの終盤にもうひと花咲かせるために、喉から手が出るほどほしいのがランキングポイントだ。

 デビスカップはポイント対象外、それでも出場したのは、調子を上げて中国、日本を転戦するATPツアーのアジアシリーズにつなげたかったからだ。デビスカップ開幕前に錦織は「ジャパンオープンもある。そこに向けていい試合ができれば」と率直に気持ちを明かしている。

 昨季後半戦は故障で離脱していたため、1年が経過して失効するポイントはなく、勝てば勝つだけランキングは上がる。上位を狙う錦織にとって、このアジアシリーズは正念場だ。幸い、上り調子でシリーズを迎えている。錦織はデビスカップの前に自身の現状について話した。

「パリ五輪まではあんまりよくなくて、ボールの感覚もよくない、ミスも多い、攻め方が分からないというのがあったが、急にモントリオール(ナショナルバンクOP、マスターズ1000)で“バチッ”と、ステファノス・チチパス(ギリシャ=当時11位)に勝ったところぐらいから感覚がよくなり、攻める自信も出てきた。(8月下旬からの)イタリアのチャレンジャーも、結果はそんなによくなかったが、試合内容はかなり良かった。アップダウンがあるのはメンタル的なところ(から来るもの)だと思う。そこをクリアすれば、かなりテニスの調子はいいんじゃないか」

 数カ月前に語っていた「ふいにパッと(好調時に)戻れたりすると思う」という希望的観測がいよいよ現実になった。

 ジャパンオープンでは過去2度の優勝を誇る。ただ、今は復活への道半ば、いきなりの優勝を期待するのは酷だ。しかも今大会は出場選手のレベルが高く、全米オープン準優勝のテーラー・フリッツ(米国)、22、23年全仏と22年全米で準優勝のカスパー・ルード(ノルウェー)らトップ10から3人、さらに、チチパス、昨年優勝のベン・シェルトン(米国)などトップ20からも多くの選手が参戦する。楽しみなマッチアップが期待できるのはいいが、錦織が勝ち上がるのは、地元のアドバンテージは少なからずあるとしても、容易ではない。1回戦の相手は元世界3位のマリン・チリッチ(クロアチア、373位)に決まった。

 もちろん、勢いに乗り、コンディションにも問題がなければ、一気に走る可能性もある。モントリオールとデビスカップで見せたプレーが、そんな期待を抱かせるものだった。国別対抗戦とATPツアー大会では観客席の雰囲気は異なるが、ファンのあと押しも期待できる。ただ、現実的には、一つでも多く勝ってランキングポイントを増やすことが目標になる。また、モントリオールのチチパス戦がそうであったように、浮上のきっかけになるような、内容のある試合ができれば上出来だろう。

 なにより、日本の観客の前で、再び幸せな時間を過ごしてほしい。ファンの歓声が、大きな拍手が、完全復活に向けて次のステップに進もうとしている錦織の、新たなモチベーションになるはずだ。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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