ベアマンとコラピント、F1の歴史を変える驚異の新人か?

柴田久仁夫

才能の見極めは、いつも難しい

デビュー前のミハエル・シューマッハの評価は、実はそれほどではなかった 【©️ScuderiaFerrari】

 ルーキーの実力の見極めは、いつも難しい。これまで多くの「期待の大型新人」「次代を担う才能」がF1に現れ、しかしそのほとんどは消えていった。(当時の)最年少記録19歳でF1デビューしたハイメ・アルグエルスアリ、若き天才と称されたケビンの父ヤン・マグヌッセン、最近ではF2チャンピオンのミック・シューマッハも、才能を開花させることができないままF1を去っている。

 逆にミックの父ミハエルは、実はデビュー前の評価はそれほどではなかった。当時メルセデスドライバーだったミハエルは、カール・ウェンドリンガー、ハインツハラルド・フィレンツェンに次ぐ3番手の位置付けだった。

 1991年ベルギーGPで鮮烈デビューを果たした際も、「すごい天才が現れた」と騒ぐ僕ら若手ジャーナリストたちを、フランコ・リニという長老は「あの程度のドライバーは、今までいくらでもいた」と一蹴したものだ。1950年からF1を取材し続け、ジャーナリストながらフェラーリの監督まで務めた歴史の生き証人の意見に、僕らは黙るしかなかった。

 その後のシューマッハの活躍はご存知の通りで、結果的にフランコの見立ては完全に間違っていた。しかしそれは彼の不明というより、それほどに若い才能の見極めは難しいということだ。

 もちろん運や巡り合わせも、重要だ。今回の勝利で早くもキャリア2勝目を挙げたピアストリも、元々はアルピーヌ育成ドライバーだった。もしマクラーレンへの移籍が叶わなかったら、今のような活躍どころかF1デビューもできていなかったかもしれない。

大型新人の誕生

ダブル入賞のシャンペンシャワーを浴びるアルボンとコラピント 【©️WilliamsF1Team】

 ではベアマンとコラピントに、明るい未来は開けているだろうか。七度の世界チャンピオン、ルイス・ハミルトンは、二人のレースぶりを「大いに感心した」と語る。

 「レース前半はフランコ、後半はオリバーとバトルしたんだが、二人ともこれがまだ2戦目なんだよね。本当にいい仕事をした。彼らのような若手が登場して、こんなに活躍するのを見られてうれしいよ」と、手放しで賞賛。マシンから降りるとベアマンに歩み寄り、握手を交わした。

 ベアマンはすでに来季、ハースからのフル参戦が決まっている。早くからその才能に注目してきた小松礼雄代表が、抜擢を後押しした。ハースで経験を積んだあとは、ハミルトンの後継として、フェラーリドライバーとなる。来年からの活躍次第では、その可能性は十分にあるだろう。

 一方、コラピントとウィリアムズとの契約は、今季のみ。チームは来季のアルボンのチームメイト選びにかなり難航した末に、最終的にカルロス・サインツを選択した。しかしボウルズ代表もまさかコラピントがこれほどやれるとは、思っていなかったのではないか。

 確かにサインツは素晴らしいドライバーだが、今季の推定年俸1400万ドル(約19億7000万円)とかなりの高給取りだ。コスパで言えばコラピントの方が格段によく、そのお金を開発に回すこともできた。

 とはいえ残り7戦も今の走りを続けられれば、ライバルチームも放っておかないだろう。二人の大型新人が誕生した幸運な瞬間に、僕たちはアゼルバイジャンで立ち会えたようだ。
(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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