小田凱人がパリで叶えた金メダルの夢「引退するときに1番は…」

スポーツナビ

大逆転でつかんだ金メダル

男子シングルス決勝 プレーする小田凱人 【写真は共同】

 7日に行われたシングルス決勝は緊迫した空気の中、小田のサービスゲームでスタートした。最初のポイントはヒューエットが獲得するも、小田は落ち着いて取り返し、その後も強気のサーブから得点を重ね、デュースの末に第1ゲームを先取した。

 直後、ヒューエットがメディカルタイムアウトを取って少し間が空いたが、小田は集中力を切らさずに第2ゲームのブレークに成功する。「ファーストセットはやはり自分のテンション感で押していけた」と振り返ったように、そのまま流れを離さず、最後はリターンをライン上に決めて第1セットを6-2で制した。

 ゲーム間に“トキト”コール、“アルフィー”コールが入り乱れる大盛り上がりの中、第2セット最初の山場は2-1で迎えた第4ゲームに訪れた。小田が先にブレークポイントを迎えるも、ヒューエットが追い付き、10回のデュースの末にキープに成功する。ここで流れが傾きかけたが、動じずに第5ゲームをキープし、主導権を譲らなかった。

 試合が動いたのは第9ゲーム、4-4で迎えた小田のサービスゲームをヒューエットが制して、このセット初のブレークに成功した。そのまま第10ゲームをキープして、4-6で第2セットを取り返した。

 ファイナルセットはお互いにブレークからスタートしたが、1-2の第4ゲームでヒューエットがキープに成功すると、ここからは一転してキープが続いた。3-5で迎えた第9ゲーム、ヒューエットが30-40でマッチポイントを握った。しかしヒューエットが放ったドロップショットが外れると、小田はここで耳に手をかざし声援を煽り、観客たちはそれに大きく応えた。この場面を「まだ終わらないぞという僕なりの表現」と振り返ったとおり、小田はデュースを制してキープに成功する。

「4-5になってからは本当に、全く怖くなくて、もう行けるって感じでした」と、第10ゲームでブレークに成功し、第11ゲームを着実にキープして6-5と逆転した。ついに迎えたマッチポイント、最後はヒューエットの返球がネットを超えず、大逆転で金メダルに輝いた。

車いすテニス男子シングルスで金メダルを獲得し、アルフィー・ヒューエット(右)と健闘をたたえ合う小田凱人 【写真は共同】

 勝利が確定した瞬間、観客のボルテージは更に数段上がり、祝福を拍手と歓声で表現した。小田はラケットを放り投げ、そのままの勢いでくるっと回って見せた。そして車いすの車輪を外すと、倒れこんで天井を見上げ、目頭をぬぐった。そこにヒューエットが近付いてくると、外れた車輪を渡しながら2人は握手を交わした。

 ヒューエットの支えも借りながら小田は起き上がり、2人は再び健闘を称えて抱き合う。印象的な場面にこの日一番の歓声が上がった。

 勝利後のパフォーマンス、小田に尋ねるとこんな裏話があった。

「本当は、(くるっと回ってそのまま背中から)ダイブしたかったんですけど倒れなかった。倒れなかったら(車輪を)外して倒れるってずっと決めていた。1回くるくる回って倒れたことがあって、これは絶対パリ(大会)に取っておこうと思っていて、年末ぐらいに閃いていた」

 小田は自らの試合を「マッチではなくてショー」とこれまで表現していた。今日の試合、そしてパフォーマンスを見ていると、その意味が十二分に伝わってきた。

車いすテニスのスタンダードを…

 小田は大会前、車いすテニスが“好き”で「やり続けるために勝つのが大事」と話していた。銀メダルに終わったダブルス決勝後にもシングルス決勝に向け「楽しむ」という言葉を口にしていて、決勝後にも「(試合中に)笑うこともできていて、1番楽しい試合だった」と答えるなど、大会を通じて“好き”という気持ちが常に伝わってきた。

 決勝の舞台となった全仏オープン開催地・ローランギャロスのセンターコート“フィリップ・シャトリエ”について小田は「こういう(大きな)舞台の方が僕に合っているとずっと信じ続けてやってきた」と振り返りつつ、大勢の観客を集め、彼らを熱狂させたことについてこう話した。

「車いすテニスをシャトリエでやっても、沢山のお客さんが入るということは証明できたと思うし、それに見合う試合もできたと思う。ここからは(車いすテニスの)スタンダードを上げていきたい」

 パリの地で夢を叶えた小田凱人は試合を「現役引退するときに、1番(の試合)というのは今日じゃないかな」と振り返った。車いすテニスの価値を証明したこの試合は、車いすテニス界に留まらず、パラリンピックにとって大きなターニングポイントになるだろう。

(取材・文:山田遼/スポーツナビ)

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント