小田凱人がパリで叶えた金メダルの夢「引退するときに1番は…」
大逆転でつかんだ金メダル
男子シングルス決勝 プレーする小田凱人 【写真は共同】
直後、ヒューエットがメディカルタイムアウトを取って少し間が空いたが、小田は集中力を切らさずに第2ゲームのブレークに成功する。「ファーストセットはやはり自分のテンション感で押していけた」と振り返ったように、そのまま流れを離さず、最後はリターンをライン上に決めて第1セットを6-2で制した。
ゲーム間に“トキト”コール、“アルフィー”コールが入り乱れる大盛り上がりの中、第2セット最初の山場は2-1で迎えた第4ゲームに訪れた。小田が先にブレークポイントを迎えるも、ヒューエットが追い付き、10回のデュースの末にキープに成功する。ここで流れが傾きかけたが、動じずに第5ゲームをキープし、主導権を譲らなかった。
試合が動いたのは第9ゲーム、4-4で迎えた小田のサービスゲームをヒューエットが制して、このセット初のブレークに成功した。そのまま第10ゲームをキープして、4-6で第2セットを取り返した。
ファイナルセットはお互いにブレークからスタートしたが、1-2の第4ゲームでヒューエットがキープに成功すると、ここからは一転してキープが続いた。3-5で迎えた第9ゲーム、ヒューエットが30-40でマッチポイントを握った。しかしヒューエットが放ったドロップショットが外れると、小田はここで耳に手をかざし声援を煽り、観客たちはそれに大きく応えた。この場面を「まだ終わらないぞという僕なりの表現」と振り返ったとおり、小田はデュースを制してキープに成功する。
「4-5になってからは本当に、全く怖くなくて、もう行けるって感じでした」と、第10ゲームでブレークに成功し、第11ゲームを着実にキープして6-5と逆転した。ついに迎えたマッチポイント、最後はヒューエットの返球がネットを超えず、大逆転で金メダルに輝いた。
車いすテニス男子シングルスで金メダルを獲得し、アルフィー・ヒューエット(右)と健闘をたたえ合う小田凱人 【写真は共同】
ヒューエットの支えも借りながら小田は起き上がり、2人は再び健闘を称えて抱き合う。印象的な場面にこの日一番の歓声が上がった。
勝利後のパフォーマンス、小田に尋ねるとこんな裏話があった。
「本当は、(くるっと回ってそのまま背中から)ダイブしたかったんですけど倒れなかった。倒れなかったら(車輪を)外して倒れるってずっと決めていた。1回くるくる回って倒れたことがあって、これは絶対パリ(大会)に取っておこうと思っていて、年末ぐらいに閃いていた」
小田は自らの試合を「マッチではなくてショー」とこれまで表現していた。今日の試合、そしてパフォーマンスを見ていると、その意味が十二分に伝わってきた。
車いすテニスのスタンダードを…
決勝の舞台となった全仏オープン開催地・ローランギャロスのセンターコート“フィリップ・シャトリエ”について小田は「こういう(大きな)舞台の方が僕に合っているとずっと信じ続けてやってきた」と振り返りつつ、大勢の観客を集め、彼らを熱狂させたことについてこう話した。
「車いすテニスをシャトリエでやっても、沢山のお客さんが入るということは証明できたと思うし、それに見合う試合もできたと思う。ここからは(車いすテニスの)スタンダードを上げていきたい」
パリの地で夢を叶えた小田凱人は試合を「現役引退するときに、1番(の試合)というのは今日じゃないかな」と振り返った。車いすテニスの価値を証明したこの試合は、車いすテニス界に留まらず、パラリンピックにとって大きなターニングポイントになるだろう。
(取材・文:山田遼/スポーツナビ)