金メダルでも「不満」を持てる幸せ やり投げ・北口榛花が到達した“究極の高み”

大島和人

「満足できない」という幸せ

北口は愛嬌と真剣さが両立したアスリートだ 【写真は共同】

 陸上競技は結果と試合後のリアクションがあまり一致しない。トップ選手は得てして相手でなく自分と戦っている。記録や結果よりも「納得感」を追い求めている。北口も最高の結果を残しつつ、自分に納得していなかった。

 北口は2024年前半の「追い込まれた状況」を何とか脱し、金メダルをつかみ取った。それでも彼女の言葉から、栄光は過程であることが伝わってきた。つまり彼女は金メダル以上の高みを目指している。別の見方をするなら「金メダルを獲得しても満足しない」レベルのアスリートだからこそ、彼女は金メダルを獲得できた。

 親しみやすい笑顔や、投てきの合間にカステラを食べる「緩い」様子も間違いなく北口の魅力だ。一方でやり投げについて語り始めると突き詰めすぎるゆえの葛藤、他の人と共有できない感覚を持つ孤独が伝わってくる。

 もっとも、それは決して後ろ向きな現実ではない。こんなコメントが印象に残った。

「みんなが目指している1試合で勝つのはそう簡単ではないので、すごく嬉しいです。それでも満足できない理由があるのは、とても幸せだなと思います」

 金メダルを獲得しても「不満」が持てる――。それは彼女がアスリートとして究極の高みに達しているからだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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