週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

試合中にデータを分析して打席ごとに修正 「33号本塁打」に見る、大谷翔平の卓越した“アジャスト能力”

丹羽政善

8月2日のアスレチックス戦、九回の第5打席で3ランを放ち、雄たけびを上げる大谷 【Photo by Thearon W. Henderson/Getty Images】

「初安打もそうですし、初勝利もここなので思い出はありますね。これから使えなくなるので大事に試合したいと思ってますけど、それ以上に(室内)ケージがないので、どうやって試合の中で次の打席、次の打席に合わせていくのが難しい球場ではあります」

 今季限りでオークランドを離れるアスレチックス。ドジャースとアスレチックスが今年のワールドシリーズで対戦しない限り、大谷翔平(ドジャース)がもう、1972年からのワールドシリーズ3連覇、80年代後半からはリッキー・ヘンダーソン、マーク・マグワイア、デニス・エカーズリーらが活躍するなど、華やかな歴史に彩られてきたオークランド・コロシアムでプレーすることはない。

 大谷は2018年3月29日(現地時間、以下同)にオークランドでデビューし、初安打。3日後には投手として初勝利を挙げた。22年5月、同球場でメジャー通算100号の節目となる本塁打を放ち、同年10月には投打で規定に達した。先週8月3日には30-30(30本塁打以上、30盗塁以上)をマークしている。

 球場について聞かれた大谷が、不便さもユーモアに代え、逆に愛着を感じさせるコメントをしたのは8月2日のことだが、わざわざ室内ケージの有無に触れたのは、含みがあった。

 その日、大谷は1打席目、2打席目ともにセンターへ大きなフライを放ったが、飛距離が出なかった。

【参照:STATCAST(ホークアイを用いたMLB独自のデータ解析ツール)】

 打球初速はともに十分。しかし、角度がつきすぎていた。とはいえ、おそらく本塁打と紙一重。どこにずれがあったか聞くと、「2打席目は良かったと思いますね」と大谷は振り返って、続けた。

「36度で105マイルくらい出ているので」

試合中にデータを分析して本塁打に

8月3日のアスレチックス戦、九回に二盗を決めた大谷。日本人選手初となる「30-30」を達成した 【写真は共同】

 STATCAST のデータとはやや誤差があったものの、大谷が具体的に打球のデータを口にしたのは、初めてではなかったか。これは毎回、大谷がそうした数値を確認し、それを元に修正を加え、次の打席に向かっていることを示唆している。

 実際、打球初速が105.5マイルで打球角度が37度ならば、バレルゾーンに入っているので、ホームランになっていてもおかしくない。もちろん、35度を下回ることが理想だが、とはいえ、なぜこれで373フィートしか飛ばなかったのか?

 大谷の分析はこうである。

「どちらかというと(バック)スピンがかかり過ぎている。同じ打球でも伸びない要因はそこかなと思うので、(スイング)軌道が少しずれているのかなと思います」

 大谷は向かってくるボールに対し、バットの軌道を一直線ではなく、ボールの中心のやや下を平行に通すイメージで振っている。以下の動画は6月5日、大谷がポール・スキーンズ(パイレーツ)から本塁打を打ったときのバットの軌道を可視化したものだが、オリジナルの映像を見ると、さらにそのことをイメージしやすい。

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 おそらく1打席目、2打席目は、バットを通す位置がイメージよりも下過ぎた。わずかに差し込まれ、打球の回転軸も傾いていたのかもしれない。 そうしたミスショットの原因を修正し、迎えた5打席目。大谷は右翼席に3ランを放った。これがそのときのデータだ。

【参照:STATCAST】

 1、2打席目より打球初速が速くなっているが、それよりも角度が25度に改善されていた。バットを通す位置を変えたことが分かる。またこの打球にはトップスピンがかかっていた。やや遅れていたコンタクトのポイントを少し前にした結果ではないか。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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