「若き苦労人」が個人総合で金メダルを獲得 20歳・岡慎之助の勝因と日本体操のこれから

大島和人

岡慎之助がパリ五輪の男子個人総合のメダルに輝いた 【写真は共同】

 体操男子の個人総合決勝が、7月31日(現地時間)に行われた。個人総合は各国から最大2名が参加し、6種目(ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒)の合計得点で競うカテゴリーだ。

 団体総合の優勝を争った日本、中国の2選手は、全員が予選最上位のグループに入り、同じ順番で各種目を行っていた。

 かなりの接戦だったが、予選2位の岡慎之助が男子個人総合を制した。予選首位の張博恒(中国)はゆか、予選3位で東京大会の個人総合王者でもある橋本大輝はあん馬と、序盤で大きな減点の伴うミスを犯している。それに対して岡はノーミスで6種目を終え、合計得点86.832を記録した。

 最後の鉄棒は張博恒が「14.833」以上を出せば逆転だったが「14.633」にとどまり、岡が逃げ切った。

金メダルの理由は?

岡の「エレガントさ」は採点でも評価された 【写真は共同】

 岡は岡山県出身の20歳。2019年に上京して名門・徳洲会体操クラブの門を叩き、同年の世界ジュニア体操競技選手権の個人総合を制した。日本体操の未来を担う有望株として注目されていたが、2022年春の全日本選手権では右膝の前十字靭帯を断裂する重傷を負い、五輪の選考会を兼ねた24年5月のNHK杯も腰痛を抱えて戦うなど、ケガに苦しむキャリアを送ってきた。

 しかし今回はそんな「若き苦労人」が、世界の頂点に立った。男子日本代表の水鳥寿思監督は岡の優勝についてこう述べる。

「本当に期待していた選手でしたが覚醒してくれたというか、まさか1カ月間でここまで見違えたことは想像を超えていました。日本の素晴らしい体操を体現してくれる、絶対に必要な選手だと思っていましたが、その彼がグッと力をつけて結果を出してくれた。本当に嬉しいです」

 日本のエースとみなされていたのは、東京五輪の個人総合王者で、岡より2歳上の橋本大輝。ただし彼は指の負傷で5月のNHK杯を欠場し、今大会も完調とはいい難い状況だった。

 岡はNHK杯を制し「個人でも金を狙っている」と口にしていたが、全種目を大きなミスなく終えて有言実行を果たした。

 NHK杯でミスを犯したあん馬への懸念を持ちつつ、手応えを感じながら個人総合に臨んでいた。

「2つ目のあん馬が大事になってくるから、そこだけはしっかりと意識してやっていました。この1ヶ月はほとんどミスがなかったし、事前合宿もずっと安定して(いい演技を)出せていたので、それが自信になっていました」

 採点面で優勝の要因に挙げられるポイントは「Eスコア(出来栄え点)」の高さだ。水鳥監督はいう。

「Eスコアがとにかく評価されて、僕らが想像しているよりも点数が出てきた。世界(の審判員)は彼の体操が基本に忠実で、素晴らしいと評価してくれました。あと僕らはずっと『着地』と言っていましたが、そこはおそらく彼がこの大会を通じて一番意識できていたところ。それも勝因としてあると思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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