週刊MLBレポート2024(毎週金曜日更新)

打率トップに急浮上 イチローに憧れて育ったイエリチが、大谷翔平の三冠王を阻止!?

丹羽政善

史上初の「50-30」達成なるか

 ただ、前半を振り返れば、三冠王以外にもこのままいけば……という数字が並ぶ。

 7月10日(現地時間、以下同)の試合を終え、28本塁打、22盗塁なので、シーズン通算では49本塁打、38盗塁ペース。50本塁打、30盗塁以上を意味する「50−30」を記録した選手は過去、誰もいない。「40-40」を達成すれば、史上6人目。

 また、そうした記録的なシーズンとなれば、指名打者はMVP(最優秀選手)をとれない、というMLBの常識を覆すことにもなりうる。

 守備につかない指名打者は、MVPレースにおいてハンデ戦だ。例えば、MVPに投票する記者が参考にするWAR(Wins Above Replacement)という指標がある。これは、その選手が最低限のコストで代替可能な選手と比べて、どれだけチームの勝利数を増やしたかを様々な投手成績、あるいは打撃成績から算出したものだが、指名打者は守備評価がゼロどころかマイナス。結果、WARの伸びが抑えられる。

 現在、大谷のWARは5.1でMLB全体で4位。1位はガーナ―・ヘンダーソン(オリオールズ)の6.2。オフェンス、走塁の指標では大谷が上回っているが、ヘンダーソンはショートを守っているので、その時点で守備の基礎点が高い。

オリオールズのガーナー・ヘンダーソン 【Photo by Charles Brock/Icon Sportswire via Getty Images】

 ただ、ナ・リーグにおいて5.1は1位。大谷は、守備のマイナス分をオフェンスと走塁だけでカバーしている。MVPに投票する記者が、WARだけを参考にするわけではないが、この値に三冠王とまではいかなくても、50-30、もしくは40-40という記録が加われば、もはや、指名打者だからといって、1位の対象としないわけにはいかないかもしれない。

 もちろん、MVPの話もまだ気が早いのだが、三冠王の可能性も含め、大谷は前半をそういう議論が決して的外れではないという位置で、シーズンを折り返そうとしている。

 ところで、今週に入ってイエリチが規定打席に達し、7月10日現在、.335でナ・リーグの打率部門トップに立っている。大谷が.317で2位。ということは今後、2018年に惜しくも三冠王を逃したイエリチが、大谷の三冠王を阻止するような展開も予想できる。

「そうなったら、面白いね」とイエリチは笑みを返した。

 ブリュワーズとドジャースは、ワールドシリーズ出場をかけて、ナ・リーグの優勝決定戦で対戦する可能性もあるーーそれもまた、2018年のように。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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