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ミゲル・カブレラ以来の「三冠王」戴冠へ 不振を脱した大谷翔平は“インハイ攻め”をどう克服するのか

丹羽政善

大谷、11人目の「三冠王」戴冠なるか

2012年、打率.330、44本塁打、139打点で45年ぶりの三冠王に輝いたミゲル・カブレラ。三冠王を戴冠した最後の選手だ 【Photo by Mark Cunningham/MLB Photos via Getty Images】

 では、こういう場合、打者はどう対処すべきか? 

 大谷が2020年と21年のオフに通ったシアトル郊外にあるドライブライン・ベースボールでは、「スイング・ディシジョン」という考え方を、選手に実践させている。

 苦手なコースを克服することで自分のスイングが変わってしまい、長所が失われる可能性があるなら、2ストライクまでそのコースは振らない、というもの。これはかつて、最後の4割打者であるテッド・ウィリアムズも実践したとされる。

 追い込まれるまで球種にヤマを張るというよりは、コースに狙いを絞るアプローチと言い換えてもいい。実際、最近になって大谷は、インハイを見送るようになっている。

 6月22日のエンゼルス戦。初回、エンゼルスのザック・プリーサックは1ストライクからの2球目、インハイへスライダーを投げた。ゾーン内だったが、これを大谷は見逃した。三回の2打席目も大谷は初球、インハイの4シームを見送った。これはゾーンを外れていたが、これまでの大谷なら、2球とも手を出していたのではないか。

 試合後、プリーサックが首をひねった。

「インハイに投げればボール球でも手を出してくる、というリポートだった。ファールになるか、フライに打ち取れればよかったけど、翔平は手を出さなかった。1打席はストライクゾーンだったけど、振ってこなかった。ちょっとデータとは違う印象だった」

 6月25日の試合でも初回、2−0からの3球目、大谷はインハイのカッターを見逃している。それがゾーン内だったにも関わらず。その後2−2となり、5球目のカーブを右中間スタンドへ運んだ。

 ただ、ホワイトソックスはあの試合において、冒頭でも触れたように、4打席目、5打席目は追い込んでからインハイに投げてきた。大谷としても見逃すわけにはいかず、ファールに出来ればよかったが、いずれも空振り三振という結果だった。

 これは、今後の攻めを示唆するのか、たまたまなのか。

 もっとも、すでに触れたように、決して苦手なコースではない。

 実は昨年も前半は、インハイに苦しんだ。3月30日の開幕から5月28日まで、右投手のインハイの打率はわずか.182。ところが、5月29日から8月31日までは打率.545、3本塁打。覚醒のきっかけが、後にチームメートになるルーカス・ジオリト(現レッドソックス)からの本塁打だったことは有名だが、立て続けにホームランを放ったことで、相手もインハイを避けるようになった。

 今年になってなぜ再び、という疑問が残るが、いずれにしても今年も大谷は、遅かれ早かれ、インハイに適応するのか。それを見極めるまでは、相手もインハイを攻め続けるのか。その駆け引きの行方こそ、2012年のミゲル・カブレラ以来、11人目の三冠王(打点が正式に記録と認められた1920年以降)誕生の行方をも左右することになるのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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