フェルスタッペンもいなくなり、2年後のレッドブルF1はBチームに転落する?

柴田久仁夫

あり得ない決断だった、ペレスとの契約延長

レッドブルは低迷の続くペレスと、2年間の契約延長を結んだ 【©️Redbull】

 そんな中、セルジオ・ペレスの契約更改が先日発表された。かつてのレッドブルだったら、ありえない決断だった。

 ペレスはシーズン序盤こそ3レースで2位に入り、No.2の役割をそれなりに果たしていた。しかしモナコとカナダで2戦連続予選Q1落ち、レースでも8位入賞が最高と、まったく結果が出せていない。ドライバーズ選手権も5位に低迷している。

 にもかかわらずチームは、2年間の契約更改を決めた。確かに世界的な通信企業テルメックスをはじめとするメキシコの大口スポンサーの存在は、チームにとっては大きな魅力だ。しかしマシン性能で圧倒的優位を誇った去年までならまだしも、今はチームメイトの援護なしではフェルスタッペンも簡単には勝てない。強力なドライバーラインナップの形成が、レッドブルには急務だったのだ。

 普通に考えれば、フェラーリ離脱が決まっているカルロス・サインツの獲得がベストだった。一方でサインツには、2026年からアウディのワークスチームとなるザウバーが、強力なオファーをしていた。しかし来季1シーズンに限れば、レッドブルとザウバーのチーム力の差は明らかであり、上位争いにこだわるサインツを説得する余地は十分にあったはずだ。

 しかしマルコ博士が推したサインツを嫌って、ホーナー代表はペレスに決めた。角田裕毅の抜擢も、同じ理由から却下されたようだ。セクハラ問題の際に、ペレスがいち早くホーナー支持を表明したことも、決め手の一つだったようだ。もしそれが事実なら、そんな理由でドライバーを決めるのかと情けなくなるが…。

そしてフェルスタッペンもいなくなる?

フェルスタッペンが契約満了の2028年まで、レッドブルに残る保証は決してない 【©️Redbull】

 レッドブルの弱点は、ナンバー2ドライバーだけではない。車体開発も、ニューウィの離脱で弱体化する可能性は高い。現代のF1マシンは多くの才能が結集して作り上げるもので、特定のデザイナーの名前が挙がることは滅多にない。そんな中、ニューウィだけは特別な存在であり、チームも彼の独創性に頼り切っていたからだ。

 そしてもう一つ、レッドブルの致命傷になりうるのが2026年からのパワーユニットである。ご存知のようにレッドブルはホンダとの契約解消を受け、独自にPUを開発、製造することを決めた。そのためにレッドブルはメルセデスやフェラーリ、そして英国ホンダからも多くの技術者を引き抜き、開発を進めてきた。しかし開発期間が実質2年しかなく、苦戦しているという噂は何度も流れている。

 そのたびにホーナー代表は「開発は順調だ」と否定してきた。しかし使用が義務付けられる100%カーボンニュートラル燃料(CNF)は、従来の燃料に比べパワーの落ちが大きい。そのギャップを埋めるのは、既存メーカーでも簡単なことではない。

 現行より3倍のパワーアップが必要な電気モーターの開発は、さらに難易度が上がる。「ノウハウのない新興メーカーは、特に信頼性確保で苦労するでしょうね」と、ホンダPUの開発責任者の角田哲史エンジニアも語っていた。

 そんなレッドブルにとって最悪のシナリオは、「フェルスタッペンの離脱」であろう。しかしもし2026年のパッケージに戦闘力がないとなれば、たとえ2028年までの超長期契約を結んでいても、フェルスタッペンは早々にチームを見限るはずだ。そうなったらレッドブルが一気にBチームに転落するのに、そう長い時間はかからないことだろう。
(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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