南野拓実、覚醒の理由 攻撃陣を牽引しモナコをリーグアン2位に導く原動力に

木村かや子

勝負の行方を変える選手に

アジアカップから戻った後の南野は「チームでも指折りの、戦術的知性を持つ選手」と仏メディアから評価されるように 【Photo by Jean Catuffe/Getty Images】

 こうしていいスタートを切り、一時は首位にも立ったモナコだったが、1年を通しすべてがバラ色だったわけではない。ヒュッターのシステム上で非常に重要な役割を果たす2人のウイングバックの大ケガ、FWの故障など、多くの災難に見舞われたモナコは途中で調子を落とし、一時は監督の座が危ぶまれるような事態にさえなる。そんな中で日本代表とアジアカップに臨み、しばし留守をした南野は、戻ってくるや、前半戦を上回る牽引力を見せ始めた。

 まず、アジアカップから戻った後の最初の先発試合だった2月11日の第21節、当時2位だったニースとの試合で、南野はザカリアへのアシストにより、3-2の勝利に貢献した。久々に南野、ゴロビン、ベン・イェデルの“さんさの鉾”が揃ったこの試合は、しくじれば監督の首が飛びかねなかった重要な一戦だった。

 そして第23節、やはり上位争いのライバルだったRCランスとの対戦で、至近距離からのシュートでモナコの2点目を誘発した南野は、2-0から2-2に追いつかれた後のロスタイムに、右サイドからドリブルで切り込むと、左足で決勝点を叩き込んだ。

 南野自身が「素晴らしい気分。ああいうシュートを決めたことはなかったから、自分でも驚いていている」と表現したその90+2分のゴールは、恐らく今季最も記憶に焼き付いた最重要ゴールだった。最後まで諦めない精神が生み出した、文字通り勝負を分ける一発だったからだ。

「違いを生める選手になりたい」とモナコに来て以来ずっと言い続けていた南野は、「チームに勝利を呼び込むゴールというのは常に嬉しいし、そういう力をこのチームで示していきたいと思っていた」と喜びを隠さなかった。

 また南野は、この頃になると、ほぼ起用ポジションを選ばずいい働きを見せられるようになっていた。故障者の関係で4-4-2だったこの日、右ウイングで始めた南野は、自在に動いてときにFWのように最前線に飛び込み、ときに自陣低くまで下がってボール奪回に尽力するなど、攻守で貢献。セカンドボールに対する反応などでも鋭さを見せ、「チームでも指折りの、戦術的知性を持つ選手」と仏メディアから評価されるようになっていた。

手ごたえも「常に上を目指してやっていきたい」

アウェーでのブレスト戦でもゴールを決め、チームを勝利に導いた南野(右) 【写真:ロイター/アフロ】

 RCランス戦での勝利で3位に浮上したモナコにとってのもう一つの大一番は、4月21日、第30節にやって来た。この間、時に苦労しながらも3位の座を維持してきたモナコは、勝ち点1差で2位にいたブレストとアウェーで対戦。ヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)に出ていたリールとの第29節が未消化だったといえ、勝てばブレストを抜き2位に浮上するこの直接対決で、モナコはかなりの苦戦を強いられるのだが、南野はここでも自らのゴールで、チームを2-0の勝利へと導いた。

「ご存じの通り、これに勝つか負けるかで今季の行方が決まるというくらい重要な試合だった。ああいう少ないチャンスをものにできる自信はあったし、チームに貢献できて本当に良かった」と手応えを吐露した南野は、「こういう試合で何かをやってこそ、チームにとって重要な選手になれる。試されている一戦だという気持ちで臨んだ」という言葉で、その決意のほどを覗かせた。

 モナコはその後、やはり2位争いのライバルだったリールにも勝ち、2位の座を死守。ここまで強者には負けないが格下相手に取りこぼす傾向もあり、最後まで気を抜けない状況の中、南野は5月4日、第32節のクレルモン戦で、今季9ゴール目となる先制点、2・3得点目のビルドアップ、4点目のアシストと全得点に絡む活躍により、最後の一仕事をやってのける。モナコは最終節を残した5月12日、第33節でもモンペリエに2-0で勝利。3位に勝ち点6差をつけ、最終ランキング2位と、来季のチャンピオンズリーグ(CL)本戦出場を確定させた。

 シーズン出だしの好調期に昨季のリベンジかと問われ、「いやまだまだ。シーズンが終わったとき、CLに行ければ……行く原動力になれれば、もしかしたらそう言えるかもしれないけれど」と返していた南野は、最後にようやく、満足感も滲ませた。

「開幕からいい形でシーズンを迎えることができ――チームとして難しい時期もあったけれど、攻撃の選手の1人としてチームを引っ張っていけるようなシーズンを目指していて、自分でもそれが少しできた実感はある」

 こう呟いてから、南野はすぐに「でもこれに満足することなく、常に上を目指してやっていきたい」と言い添えた。「2位を維持するために改善しなければいけない部分があり、それができてこその2位だった。そして来季はもっとタフなシーズンになる。これを機により逞しくチームを牽引できるようになりたいし、またもっと個人の結果にもこだわっていきたい」

 攻撃陣こそ若手を含め層が厚く、欧州の舞台でも戦い得る質を持つモナコだが、守備のもろさなどの課題も多々あり、CL出場で3日おきの試合を強いられる来季は、間違いなくはるかに厳しいものになるだろう。

 9得点6アシストという公式の出来高を超えて、無数の好機の仕掛け人となり、何より勝負を左右する活躍を見せた今季にも、「まだまだ全然足りていない」が口癖だった南野が、来季に見せるのはどんなプレーなのか。別レベルの挑戦が待つ来季、その可能性は、未知数であると同時に無限だ。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。2022-23シーズンから2年はモナコ、スタッド・ランスの試合を毎週現地で取材している。

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