明大の超逸材・宗山塁を球宴3回出場の名遊撃手が解説 打撃は高橋由、守備は今宮、早大時代の鳥谷より完成度は上

平尾類

数字に表れない部分の能力も非常に高い

現役時代は名ショートとして名を馳せ、宗山がプレーする東京六大学出身でもある大引氏。自身と共通点が少なくない21歳のビッグタレントのすごさを事細かに解説してくれた 【写真:平尾類】

 スランプで落ち込んだシーズンがないことも評価を高めている。3年時は2季ともベストナインを逃したが、それでも春は.294、秋は.340と高打率を残している。

「修正能力が高いと思います。3打席凡退しても4、5打席目できっちり安打を打つ。技術が高いだけでなく、気持ちの浮き沈みが少ないので少々結果が出なくても動じず試合中に対応する。私は大学3年の春に『自分がやらなきゃ』と気負ってしまって大スランプに陥りましたが、宗山選手は佇まい、雰囲気が常に変わらず高いパフォーマンスを発揮している。成熟した選手で、芯の強さを感じさせます」

 宗山が2年生だった時のリーグ戦で印象に残っている仕草があるという。

「守備の時に4年生のレギュラーに強い口調で叱咤激励の言葉をかけていました。上級生にああいう声掛けはなかなかできない。プロで活躍する選手は打った、守っただけではなく、数字に表れない部分が大事になってきます。守備で打球を予測する洞察力、視野の広さ、リーダーシップ、状況判断、気の利いた声掛け……。宗山選手はそういった能力が非常に高い。同じ内野手で2学年上に村松開人選手(中日)、1学年上に上田希由翔選手(ロッテ)という主将がいて、リーダーシップを発揮していたので影響を受けた部分があると思います。立派な先輩が身近にいたことも良かったのではないでしょうか」

 大きな注目を集めるドラフトイヤー。「3年までは上級生の陰に隠れている部分がある。4年生になって主将で注目される環境になり、逆境や矢面に立った時に自分の力を発揮できるか。彼は1年生の時からコンスタントに活躍してきましたし、リーダーの自覚を持ってプレーしていたと思うので心配はしていないですが、真価が問われる1年になります」と期待を込める。

全てのプレーで同世代や後輩の手本になってほしい

怪我のため試合出場は見送られたが、今冬には侍ジャパンのトップチームに選ばれた。大引氏が「プロでもスーパースターになれる選手」と太鼓判を押す逸材は、この先どんな進化を遂げるのだろうか 【写真は共同】

 攻守にプロのトップレベルで活躍できる能力を持ち、チームリーダーになれる資質を兼ね備えている。大引氏の宗山に対する評価はこちらの想像以上に高かった。だが、取材が終盤に近付いた頃、「ちょっと気になることがあったんですけど、いいですか?」と切り出した。

「昨年12月に開催された大学ジャパンでのシートノックの映像を見た時、魅せるプレーを印象付けるような形に映りました。本人はそのつもりがないし、練習で何か意図があったのかもしれませんが、私から見るとプレーが軽くて宗山選手らしくないなと。影響力があるので他の選手のプレーにも伝染して、全体的に雑な印象を受けました。彼はプロでもスーパースターになれる選手です。全てのプレーで同世代や後輩たちのお手本になってほしい」

 絶賛するだけで終わることもできただろう。「私よりレベルが数段上の選手です。才能への嫉妬で勝手な見方ですよ」と笑ったが、勇気を持って口にした要望は期待の高さゆえであり、そこには愛情が込められていた。

「宗山選手と大学は違いますが、同じ六大学リーグの代表としてプロで活躍してほしい気持ちが強いです。今、通算94安打ですよね? 私の通算安打数を超えた時にメディアで報じられて、『あっ、大引ってこんなに打っていたのか』と野球ファンの方々に思い出してもらえればうれしいですしね(笑)。プロ1年目からレギュラーで活躍すれば、26年のWBCに選出される可能性が出てきます。鳥谷さんや坂本勇人選手(巨人)のように、遊撃で長く活躍すれば名球会入りを目指せる。個人的には遊撃で1年目から起用する球団がドラフト1位で指名してほしい。彼のプレーが大好きですし、プロの世界で1年でも長く活躍してほしいです」

 大きな注目を集める宗山だが、野球人生はまだ道半ば。今後どのような進化を遂げるか。ドラフトイヤーからのさらなる成長が楽しみだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)

宗山塁(むねやま・るい)

 2003年2月27日生まれの21歳。広島県三次市出身。小1の時に三良坂少年野球クラブで野球を始め、6年時にカープジュニアでプレー。中学時代は高陽スカイバンズに所属して主に投手、遊撃でプレー。広陵高では1年夏からベンチ入りし、甲子園に2度出場。コロナ禍で大会が中止となった3年夏は、県高野連主催の独自大会で準優勝だった。明大進学後は1年春から遊撃で出場し、2年春に打率.429で首位打者を獲得。1年秋から3季連続でベストナインに選出された。3年終了時点で東京六大学リーグ通算70試合出場、打率.348、8本塁打、44打点。2年時から侍ジャパン大学日本代表の主力として活躍している。

大引啓次(おおびき・けいじ)

 1984年6月29日生まれの39歳。大阪府大阪市出身。浪速高で1年秋から正遊撃手となり、2年春のセンバツで準々決勝進出に貢献した。法大進学後は1年春からレギュラーをつかみ、遊撃手としてベストナインに5度、首位打者に2度輝く。東京六大学リーグ通算98試合出場、打率.331、5本塁打、62打点。2006年大学・社会人ドラフト3巡目指名でオリックスに入団し、1年目から遊撃のレギュラーに。トレード移籍した日本ハムでも主力選手として活躍し、ヤクルトにFA移籍した1年目の15年にリーグ優勝に貢献した。NPB通算1288試合出場、1004安打、打率.251、48本塁打、356打点、67盗塁。19年限りで現役引退した後は日本ハムの特別研修コーチとしてレンジャーズに。21年に日体大大学院に進学し、同野球部の臨時コーチに就任。中学、高校の指導にも携わっている。

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著者プロフィール

1980年4月10日、神奈川県横浜市生まれ。スポーツ新聞に勤務していた当時はDeNA、巨人、ヤクルト、西武の担当記者を歴任。現在はライター、アスリートのマネジメント業などの活動をしている。

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