パリ五輪アジア最終予選がいよいよ開幕 大岩ジャパンを深く知るための5つの焦点

飯尾篤史

【焦点3】大岩ジャパンのこれまでの招集メンバーは?

大岩ジャパンのエース・細谷真大はすでにA代表にも選出され、今年1月のアジアカップに出場。「A代表経由・パリ五輪行き」への道を突き進む 【Photo by Fantasista/Getty Images】

 これまでの約2年間の活動で、大岩ジャパンには61名の選手が招集されてきた。

 初陣となった2022年3月のドバイカップU-23で優勝に貢献したのは藤田譲瑠チマ、鈴木唯人、細谷真大、山本理仁、鈴木彩艶、半田陸、斉藤光毅といった選手たち。彼らは3カ月後のU-23アジアカップでも主力として起用され、銅メダル獲得の原動力となった。

 22年7月には細谷、藤田、鈴木彩の3人が森保ジャパンに選出され、日本で開催されたE-1選手権に出場する。国内組限定のメンバー構成だったが、大岩ジャパンのスローガンである「A代表経由・パリ五輪行き」の一歩をまずはこの3人が踏み出した。

 22年9月から23年6月にわたる4度の欧州遠征では、所属クラブでレギュラーを張る選手たちが頭角を現す。その代表格が川崎颯太や三戸舜介だ。ドバイカップに出場したものの、U-23アジアカップのメンバーから落選した川崎は、所属する京都サンガF.C.でポジションを確保し、9月のスペイン・イタリア遠征で代表復帰。それ以降、代表チームにおける存在感を増していく。

 J2時代のアルビレックス新潟でポジションを掴んだ三戸も、昇格したJ1で自信をつけていく。代表チームではウイングとインサイドハーフをこなす攻撃のユーティリティとして、欠かせぬ存在となっていった。

 23年9月以降に台頭してきたのが、年下の世代の選手たちだ。5〜6月のU-20ワールドカップを終えて、いよいよ下の世代からの突き上げが始まった。9月のU-23アジアカップ予選では松木玖生と高井幸大が、10月のアメリカ遠征ではチェイス・アンリ、福井太智、木村凌也が昇格を果たす。松木とチェイスは前年6月のU-23アジアカップのメンバーに選ばれていたから、正確に言えば復帰だが、松木はここからコンスタントに起用され、主軸を担うようになる。

 9月半ばに開幕したアジア競技大会で存在感を示したのは、佐藤恵允と内野航太郎だ。明治大学の学生だった佐藤は大岩ジャパンの初期から招集されてきた選手で、23年夏にドイツのブレーメンへ加入。アジア競技大会では左ウイングに入って2ゴールを奪うと、11月のアルゼンチン戦、今年3月のウクライナ戦でもゴールを決めた。筑波大学の1年生だった内野はアジア競技大会で4ゴールを奪ってブレイクすると10月のアメリカ遠征で追加招集され、メキシコ戦でゴールを奪ってみせた。

 オリンピックイヤーに突入した今年3月のマリ戦、ウクライナ戦では、Jリーグで好パフォーマンスを披露する選手たちが久しぶりにチャンスを得た。荒木遼太郎や染野唯月がそれにあたる。

 初陣となったドバイカップに参加後、所属する鹿島アントラーズで出場時間を減らして代表チームから遠ざかっていた荒木は、今季に入ってFC東京で復活を遂げ、目前に迫ったパリ五輪アジア最終予選に向けた“救世主”として2年ぶりに招集された。22年11月のスペイン・ポルトガル遠征以来1年半ぶりの招集となった染野は、鹿島から期限付き移籍をした東京ヴェルディでエースとしてJ1昇格に貢献。今季も好調を維持しているため、代表復帰のチャンスを手繰り寄せた。

【焦点4】大岩ジャパンの戦術・布陣・強みとは?

熱血指導でチームに戦術とタフさを植え付けてきた大岩監督。鹿島監督時代にACLを制した経験を今大会で活かせるか 【Photo by Noushad Thekkayil/NurPhoto via Getty Images】

 ボールとスペースを支配するサッカー――。やや乱暴だが、大岩ジャパンのスタイルをひと言で表すとこうなるだろう。

 昨年11月、国内で初めての代表活動となるアルゼンチン戦を前にして、大岩剛監督は国内のファン・サポーターにチームのスタイルをこんなふうにアピールした。

「ボールを奪ったらまずはゴールを狙う。それが難しければ、ボールを意図的に動かしながら、狙うべきポジションに入っていく。ボールを奪われてもすぐさまボールを奪い返せるように、自分たちがスペースをしっかり認識し、ミドルゾーンでアグレッシブに相手を陥れていく。相手が攻撃をビルドアップする際には、ハイプレッシャーも仕掛けていきます。そうした攻撃的な姿勢を見ていただきたい」

 主戦システムはアンカーを置いた4-3-3。ただし、試合中にアンカーの藤田譲瑠チマがサリーダ・ラボルピアーナ(最終ラインに落ちてビルドアップを助ける動き)をしたり、右サイドバックの半田陸がインサイドに潜り込んだり、相手や戦況に応じて4-2-3-1や4-4-2、あるいは3バックに変更する柔軟性や対応力も併せ持つ。

 22年6月にウズベキスタンで開催されたU-23アジアカップのサウジアラビア戦では、藤田と山本理仁を2ボランチ、細谷真大と藤尾翔太を2トップに据えた4-4-2でスタート。ビルドアップの際に藤田が左センターバックと左サイドバックの間に落ちてかりそめの3バックと化し、相手の2トップによるファーストプレスを回避してボールを前進させた。

 23年3月のベルギー戦では3-4-2-1の相手にかみ合わせのミスマッチを突かれると、後半に入ってFC東京のセンターバック・木村誠二を送り出して3-4-2-1に変更。ベルギーが4-3-3に変えてくると、藤田が「4-3-3だぞ!」と叫び、3-4-1-2にシフトチェンジして相手のセンターバックとアンカーを封じにいった。

 一方で、こうした戦術的な対応力を前半のうちから発揮できず、後半に入ってようやく盛り返す傾向があったのも確か。昨年6月のイングランド・オーストリア遠征で藤田は「修正力や対応力は、みんなも強みだと感じていると思いますけど、前半から相手の嫌なところを見つけて、勝負を決める力を付けないといけない」と語っていた。

 また、戦術的な駆け引きには自信があっても、ロングボールを多用したり、堅守速攻に特化したり、強引に仕掛けてきたりする相手に対して苦手意識があるのも事実だ。1-4の完敗を喫した昨年10月のアメリカ戦後、山本は課題を明確にした。

「欧州勢はシステマチックにやってくるから、いい意味で意外性がないというか。僕らがやりたいことを相手もやってくるし、僕らが動かしたいように動いてくれることがあるんで、やりやすい。ただ、オリンピックでは、こういう相手(アメリカ)とも対戦するし、その前には最終予選もある。どんな相手に対してもアジャストしていく力をつけないといけない」

 実際、アメリカ戦のひと月前に敵地で行われたバーレーン戦でも、守備を固めてカウンターを繰り出してきた相手を攻めあぐね、スコアレスドローに終わっている。

 U-23アジアカップは猛暑のカタールでのゲーム。オリンピックの出場権を懸けて、相手はなりふり構わぬサッカーで日本に一泡吹かせにくるはずだ。ボールとスペースを思うように支配できない場合の戦い方が問われることになりそうだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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