“37-35”で決したVファイナル第2セット 敗れてなお「プロの輝き」を見せた西田有志

大島和人

チームメイト、監督は試合をどう振り返る?

ムセルスキーは攻守両面でサントリーの柱となる選手 【(C)JVL】

 第1セットを落としたパナソニックにとって、第2セットは何としても奪いたいセットだった。だからこそチームも最強のオプションを出し惜しみせず注ぎ込んだ。実際に西田は「ここ」という場面でスパイクを決め続けた。しかし35-36から西田は決め切れず、サントリーがセットを連取する。あえて言い切るなら第2セットがすべてだった。

 キャプテンの山内晶大は試合をこう振り返る。

「2セット目は西田選手が入って、アグレッシブにエネルギーをチームに還元してくれましたが、そこを取れなかった。自分たちがリズムを取れなかった、波を作れなかった理由です。勝ち切れるラストのチャンスが、あそこだったのかなと感じます。(レギュラーラウンドを)1位通過しただけに、3-0で負けるのは非常に悔しい思いです」

 ティリ監督としても、西田を中心としたアタックは望むところだった。むしろ「西田をもっと使えた」という考えだった。彼は試合後の会見でこう述べていた。

「2セット目が、パナソニックのバレーだと思っています。2セット目に、相手もあったと思いますが、私達は何度もセットを取る機会がありました。ラリー中にも1回2回、セットを終えられる機会がありました。でも西田選手に上げず逆サイドに上げて……。西田選手が非常に活躍していたからこそ、それは残念でした」

 相手のサントリーはレギュラーラウンドこそ30勝6敗で2位だったが、2023年5月のアジアクラブ選手権を制し、12月のFIVB世界クラブ男子選手権大会ではヨーロッパや南米の強豪と競い合いつつ3位に入ったチーム。ムセルスキーという圧倒的な「個」を擁し、なおかつ試合巧者だった。

 大塚達宣は試合をこう振り返る。

「ムセルスキー選手のブロックだけでなくて、後ろのディフェンスがこれまでのレギュラーシーズンと違いました。僕らが対策するのと同じように向こうも対策してくると思いますが、その中ではめられてしまった部分もありました。自分の中で決まった手応えのあるスパイクを拾われてしまう、そこの切り返しからムセルスキー選手に決められる展開が多かった」

「プロ」を感じた西田

会場の有明コロシアムは完売、満員だった 【(C)JVL】

 Vリーグは2024-25シーズンから「SVリーグ」への衣替えを行う。実業団のカラーが強い現行の体制から、ファンや地域を意識したプロに近いリーグへの脱皮を図る狙いだ。

 西田は企業チームに所属しながら、完全に「プロ」のキャリアを歩んできた選手だ。三重・海星高から大学進学でなくジェイテクトSTINGS入りを選択し、イタリアでのプレーも経験。そしてこの2023-24シーズンから、リーグ屈指の強豪であるパナソニックに加わった。

 彼はパナソニック移籍初年度について「自分がレベルアップするためのシーズンでした」と振り返りつつ、自らの成長したポイントとしてディフェンス、ディグ(レシーブ)を挙げる。

「ディフェンスのところで、チームには貢献できる部分もあったなと思います。ブロックでもしっかりタッチを取る、トランジションで切り返すような展開が少しウィークになっていた部分もありましたが、そこはしっかりと数値として良くなっています」

 有明コロシアムの演出は、同じアリーナ競技のBリーグ(男子バスケ)に比べると控えめなものだった。それでもファイナルのチケットは完売し、1万人近いファンを集めている。日本のバレーボールには「お客を呼べる選手」が少なからずいて、西田も間違いなくその一人だ。

 ファイナルについていえば第2セットの攻防と、西田の奮闘は、演出や結果を超越した吸引力を持っていた。ハイレベルなプレーに加えて、ファンやメディアを意識した振る舞いも印象的だった。SVリーグが成功するためには地域密着や集客、アリーナの充実などオフコートの努力も不可欠だ。とはいえ今回ファイナルには、ファンの目を奪う「プロの輝き」があった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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