大谷フィーバーに広報はピリピリ、現場はカオス 掟破り“出禁”になったメディアも【ドジャースキャンプ取材秘話】
過剰に忖度するドジャース広報
3月17日に行われたキウムとのエキシビジョンゲームで、韓国のファンに手を振る大谷(写真中央)。左は山本由伸 【Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images】
大谷は2月22日、ライブBPの練習を行ったあとで、取材に応じた。これは予定されたものではなく、練習後に日米のメディアが本人に、「少し時間あるか?」と聞いたところ、大谷本人が「いいですよ」と言って、取材に応じている。通常の取材パターンだ。
ところがこれが後で問題となり、広報のトップが米記者らに「今後、ああいう取材をしたら、もう取材機会を作らない」と圧力をかけた。このことに対しては全米野球記者協会のロサンゼルス支部長が、ドジャースではなくMLBの広報に抗議した。
大谷が広報に「取材を断ってくれ」「近づけないでくれ」と言っているのではなく、ドジャースの広報が単に大谷に忖度していただけ。さらにコミュニケーションが取れていないことは、後日判明した。
2月29日深夜、大谷はインスタグラムで結婚を発表。これがこのキャンプ一番の驚きでもあったが、最後に「明日の囲み取材で対応させていただきます」と綴った。しかしその翌日、ドジャース広報は当初、「大谷が囲み取材を受ける予定はない」とメディアの問い合わせに答え、「大谷本人がやると言っているが」と指摘されて初めて、「確認する」と応じた。
ところが、大谷がキャンプ施設に到着し、クラブハウスに姿を見せても広報が動かないので、メディアが直接大谷と話をしようとすると広報が間に入り、ようやく確認。すんなり会見が行われることが決まった。
韓国へ出発するときの取材制限も不可解。3月13日夜、一足早く、パドレスがキャンプ地を発ったが、バスに乗り込むところを取材しても問題なかった。翌朝、ドジャースの出発時には、セキュリティが敷地外の駐車場にいるメディアを追い払った。大谷が夫人を伴うことも考えられ、撮られることを警戒しているのかと思ったが、その後、球団のSNSにあっさりと2人のツーショット写真が掲載された。
また、韓国到着時には空港取材も許されている。なぜバスに乗り込む取材だけが制限されたかは、いまも謎である。
もっとも、キャンプ終盤になるとドジャース広報のガードも緩み、それはもう、普段から取材をしている記者だけとなったこともあるが、大谷も記者らと雑談をするようになり、広報がとがめることもなくなった。だからこそ、出発の取材を巡る制限は、理解に苦しんだ。
元通訳の水原一平氏に関する声明も、大谷が3月24日の試合前、話を聞こうとするメディアに「Tomorrow」と返さなければ、ドジャースは場を設定するつもりはなかったよう。
大谷に気を遣いすぎだが、元をたどれば、代理人のネズ・バレロ氏が球団に「翔平には野球に集中させたいから、取材は断ってくれ」と伝えており、球団広報はその意向に従っているに過ぎず、板挟みである。
キャンプ終盤になって、大谷も雑談に応じるようになったことには触れたが、今回の件でまた、代理人から何らかの指示が伝えられたはず。新しく通訳を雇うなら、ガードの役割も忠実に実行できる人が選ばれるのではないかーー大谷がそれを求めていないとしても。
取材する側としては、やりにくい状況で、2024シーズンがスタートすることになる。
(本連載は今回をもちまして終了になります。これまでお読みいただき、ありがとうございました)