ドジャースキャンプレポート2024(毎週木曜日更新)

大谷フィーバーに広報はピリピリ、現場はカオス 掟破り“出禁”になったメディアも【ドジャースキャンプ取材秘話】

丹羽政善

過剰に忖度するドジャース広報

3月17日に行われたキウムとのエキシビジョンゲームで、韓国のファンに手を振る大谷(写真中央)。左は山本由伸 【Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images】

 こんなこともあった。

 大谷は2月22日、ライブBPの練習を行ったあとで、取材に応じた。これは予定されたものではなく、練習後に日米のメディアが本人に、「少し時間あるか?」と聞いたところ、大谷本人が「いいですよ」と言って、取材に応じている。通常の取材パターンだ。

 ところがこれが後で問題となり、広報のトップが米記者らに「今後、ああいう取材をしたら、もう取材機会を作らない」と圧力をかけた。このことに対しては全米野球記者協会のロサンゼルス支部長が、ドジャースではなくMLBの広報に抗議した。

 大谷が広報に「取材を断ってくれ」「近づけないでくれ」と言っているのではなく、ドジャースの広報が単に大谷に忖度していただけ。さらにコミュニケーションが取れていないことは、後日判明した。

 2月29日深夜、大谷はインスタグラムで結婚を発表。これがこのキャンプ一番の驚きでもあったが、最後に「明日の囲み取材で対応させていただきます」と綴った。しかしその翌日、ドジャース広報は当初、「大谷が囲み取材を受ける予定はない」とメディアの問い合わせに答え、「大谷本人がやると言っているが」と指摘されて初めて、「確認する」と応じた。

 ところが、大谷がキャンプ施設に到着し、クラブハウスに姿を見せても広報が動かないので、メディアが直接大谷と話をしようとすると広報が間に入り、ようやく確認。すんなり会見が行われることが決まった。

 韓国へ出発するときの取材制限も不可解。3月13日夜、一足早く、パドレスがキャンプ地を発ったが、バスに乗り込むところを取材しても問題なかった。翌朝、ドジャースの出発時には、セキュリティが敷地外の駐車場にいるメディアを追い払った。大谷が夫人を伴うことも考えられ、撮られることを警戒しているのかと思ったが、その後、球団のSNSにあっさりと2人のツーショット写真が掲載された。

 また、韓国到着時には空港取材も許されている。なぜバスに乗り込む取材だけが制限されたかは、いまも謎である。

 もっとも、キャンプ終盤になるとドジャース広報のガードも緩み、それはもう、普段から取材をしている記者だけとなったこともあるが、大谷も記者らと雑談をするようになり、広報がとがめることもなくなった。だからこそ、出発の取材を巡る制限は、理解に苦しんだ。

 元通訳の水原一平氏に関する声明も、大谷が3月24日の試合前、話を聞こうとするメディアに「Tomorrow」と返さなければ、ドジャースは場を設定するつもりはなかったよう。

 大谷に気を遣いすぎだが、元をたどれば、代理人のネズ・バレロ氏が球団に「翔平には野球に集中させたいから、取材は断ってくれ」と伝えており、球団広報はその意向に従っているに過ぎず、板挟みである。

 キャンプ終盤になって、大谷も雑談に応じるようになったことには触れたが、今回の件でまた、代理人から何らかの指示が伝えられたはず。新しく通訳を雇うなら、ガードの役割も忠実に実行できる人が選ばれるのではないかーー大谷がそれを求めていないとしても。

 取材する側としては、やりにくい状況で、2024シーズンがスタートすることになる。

(本連載は今回をもちまして終了になります。これまでお読みいただき、ありがとうございました)

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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