町田がJ1で見せる「旋風」の兆し プレスとロングスローで名古屋を圧倒

大島和人

町田は名古屋からJ1初勝利を飾った 【(C)J.LEAGUE】

 FC町田ゼルビアにとって、決して「やりやすい相手」ではなかった。名古屋グランパスは2023年を6位、22年は8位でシーズンを終えているビッグクラブ。加えて長谷川健太監督はリスクを嫌い、守備を重んじる指揮官だ。町田はつないでくる相手へのプレス、ディフェンス(DF)の背後を突く速攻を強みとするスタイルだから、名古屋とは噛み合わないはずだ。

 町田はそんな見立てを覆(くつがえ)し、3月2日のJ1第2節で名古屋に快勝している。スコアこそ1-0だが、昇格2戦目のチームがアウェイで難敵にほぼ「何もさせない」展開だった。

90分間、引かずにプレス

 町田の勝因を堅守と表現することが間違いとまでは言わないが、「堅さ」では言い尽くせない凄みがチームにはある。一般論としてどんなハードなプレスも時間が経過すれば強度が落ちる。リードした残り10分、5分となれば全体で後方に下がる判断が一般的だ。

 しかし名古屋戦の町田は、最後まで[4-4-2]の布陣で前から圧を掛け続けた。黒田監督はこう説明する。

「途中3バックも考えてはいましたが、大きく崩されることはなかった。だから変に形を崩して防戦一方になるより、前に余力を残してラインをアップさせながら、我々の時間を作れる方がいいだろうとそのまま行きました」

 ボランチの柴戸海はこう振り返る。

「点を取ったあとも引かずにやりました。(第1節の)ガンバ戦は10人の難しい状況でしたけど、(試合終盤に)引いていいことがなかった。そこは前節の反省から学んだ部分で、しっかり前から行けたと思います。(オ・)セフンと藤尾(翔太)がしっかり前から行ってくれたことで、連動できました」

 町田はボランチ、4バックが前に踏み込んで奪うシーンが多かった。それは前からのプレスが効いて、相手の選択肢を狭めた状態を作り出していたからだ。

名古屋のサイド、2トップを封殺

柴戸はパスカットなど「前向きのボール奪取」を何度も見せていた 【(C)FCMZ】

 町田は開幕のガンバ大阪戦を1-1で引き分けている。前半に先制し、内容的にも圧倒していたが、後半早々に退場者を残してその後は防戦一方となる展開だった。

 名古屋戦も開幕戦の前半と同様に、立ち上がりから2トップと攻撃的MFの前線守備が効いていた。違いは「最後まで続いた」ことだ。黒田監督は言う。

「名古屋は中山(克広)選手であったり山中(亮輔)選手だったり、またはあとから出てきた久保(藤次郎)選手であったり、ドリブルまたはスピードに特徴のある選手がいます。前線も永井(謙佑)選手、(キャスパー・)ユンカー選手と相手の背後を一発で取れる怖い選手がいました。そこに対してスピードに乗らせないこと、スペースを与えないこと、またはアーリークロスも含めて上げさせないことをトレーニングでやっていました。その封じ込めに専念した結果、チャンスを多く作られずに済んだと思います」

 単に圧をかける、球際を厳しく寄せるだけではない。チームは「2トップに決定的なパスを出させない」「サイドからのクロスを上げさせない」といった狙いから逆算した、賢い対応ができていた。さらにいうと行き過ぎないためのブレーキもかけていた。

「2トップに『2度追い・3度追い』をさせながらも、ウイングバックのところまで出ていくと後ろのスペースを使われます。できるだけ前で仕事を完結させるようにしていました。3バックへの守備は、サイドハーフが出ていかないようにコントロールしました。何本か前に引っ張り出されて、背後を使われる場面もありましたけども、後半にしっかりと修正してやれたところがすごく良かったと思います」(黒田監督)

ロングスローから波状攻撃

藤尾はゴール前の密集から頭で合わせて得点を決めた 【(C)FCMZ】

 攻撃でも町田は右のバスケス・バイロン、左の平河悠が突破力を活かして相手陣に何度も侵入していた。名古屋のDF陣はよく身体を張って弾いていたが、町田のような「前向きに、いい状態でボールを奪う」状況に至らなかった。町田のコーナーキック、ロングスローにつながる「逃げる守備」が多かった。

 町田には両サイドバックのロングスローがある。相手FWはそのたびに自陣に戻され、攻撃のリズムを奪われる。サイズに恵まれた名古屋はしっかり弾けていた。一方で選手をエリア内に集めて対応することを強いられるため、弾いた後のセカンドボールをなかなか確保できなかった。

 鈴木準弥はロングスロー、プレスキックが強みで、町田ではセットプレーのキーマンになっている。

「僕たちが(ロングスローを)あれだけ狙っているので、相手も(エリア内の守備に)人数をかけます。だから跳ね返ってきたボールをわりとフリーで拾えます」

 町田の対戦相手は、往々にしてロングスローで攻撃のリズムを断ち切られる。ロングスローは一発で凌ぎにくいプレーで、FK、CKも含めたセットプレーの連鎖に陥りやすい。弾き出さず、蹴り出さずにつなごうとすれば、ハイプレスをまともに受けることになる――。名古屋はそんな「黒田剛のジレンマ」にハマっていた。

 前半21分の先制点も、そんな形だった。ロングスローの流れから、相手のクリアを右サイドで拾った鈴木はライナー性の浮き球で折り返す。すると194センチのオ・セフンの「影」から飛び込んだ藤尾翔太がヘッドを合わせた。

 藤尾は振り返る。

「ファーから、相手の死角から入り込むイメージでした。セフンがいることによってDFはそちらに集中するので、その『後ろ』を常に狙うようにしています」

 黒田監督は22歳の若きFWをこう称える。

「(名古屋の)ゴールキーパーは背が大きくて、手足も長いので、できるだけ低いところへのシュートを心がけてやっていました。藤尾が叩きつけるヘディングシュートをきちっと、ポスト脇に決めてくれました」

1/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント