連載:サッカーIQと野球脳

サッカーIQが高い選手って? 人気解説者・林陵平が説く「考える力」の重要性

吉田治良

東大を指導してサッカーの見方が変わった

現役引退後の21年1月から約3年にわたって東大サッカー部の監督を務めた経験が、林氏の解説者としての視野を広げた。「木ではなく森を見られるようになった」と語る 【YOJI-GEN】

──では、サッカーIQとは鍛えられるものなんでしょうか? サッカーにおける賢さとは、持って生まれたものでもあるんですか?

 それって、さっきのサッカーセンスの話につながると思うんですが、たとえ戦術理解力に乏しくても、今、何をすべきかという瞬時の判断は、元々のセンスで補える部分がやはりあると思うんです。加えて、小さい頃から戦術的なトレーニングを積んでいれば、戦術理解力も伸びる可能性があるでしょう。

 ただ、教えてもできない選手もいるし、教えれば教えるだけ伸びる選手もいる。それは勉強でもなんでも同じだと思います。

──学校の勉強ができる東大生であっても、サッカーの賢さが身に付かない選手もいるんですね。

 いますね。ただ僕自身、学校の勉強ができるのとサッカーにおける頭の良さはまったく違うものだと思っていたので、そこに驚きはありませんでした。逆に(偏差値的に)日本のトップの学生たちを見させていただいて、あらためて確認できた部分が大きかったですね。

──東大サッカー部では、どんな風にして学生たちのサッカーIQを鍛えたんですか?

 個々のIQを上げるというより、まずはチームとして、サッカーの4局面(攻撃→攻から守への切り替え→守備→守から攻への切り替え)においてやるべきことをはっきりさせました。例えば、自分たちが3-4-2-1で相手が4-4-2なら、3センターバックの両脇がフリーになるから、3対2の数的優位を作ってボールを運ぼうとか、そこで相手の2ボランチが自分たちの2ボランチに食い付いてきたら、シャドーがボールを受けに行こうとか、そういったことを練習やボードを使いながら伝えてあげる。そうすると選手たちの頭の中も整理されるんです。

 ただ、そこでさらに戦術を突き詰めようとして、机上の空論的なことになってしまうケースも出てくるんですけどね(苦笑)。サッカーって、絶対にボードで動かす通りにはならないし、上から見た絵と実際にボールを持った時に見える絵も全然違いますから。そうしたズレを埋めるのが、一瞬の判断力であり、すなわちサッカーにおける賢さだと思うんです。

──的確な戦術分析で、解説者として人気を博す林さんですが、現役時代からサッカーを戦術的に見られていたんですか?

 いえ、現役時代はどちらかと言えば感覚でプレーするタイプでした。もちろん、この場面ではここにポジションを取ろうとか、考えながらプレーしていたし、「クレバーな選手」と言っていただくこともありましたが、でもそれは戦術的な判断というよりも、あくまでも感覚でやっていたにすぎないんです。

──それがどうして、今や戦術解説の第一人者と呼ばれるまでになれたんですか?

 とにかく勉強しましたし、戦術に対して先進的に取り組む東大の監督をやらせてもらったのも大きかったです。スポーツ推薦などがある大学と同じリーグを戦う上で、どうしても技術で引けを取る部分を、戦術で補わなくてはならない東大の監督を任されたことで、それまでどちらかと言うと「木」ばかり見ていた自分が、「森」、つまりサッカーの構造の部分を俯瞰して見られるようになった。サッカーの見方がガラッと変わりましたね。

 ただ、もちろんサッカーは戦術やシステムだけじゃないってことも、理解しています。球際の攻防や切り替えのスピード、もともとサッカーが持つそういった醍醐味があった上での戦術ということも忘れずに、バランスの取れた解説をしようと心掛けています。

選手の賢さを引き出す監督の戦術と指導力

賢い選手は優秀な監督のもとでさらに輝きを増す。ブライトンで“タクティシャン”デ・ゼルビ監督の指導を受け、三笘の判断力も研ぎ澄まされた 【写真:REX/アフロ】

──現代サッカーはかなり戦術が緻密になっていますが、今後さらに先鋭化されていくと、頭のいい選手しか生き残れない時代もやって来るかもしれませんね。

 いや、そうとは限らないと思いますよ。もちろん賢さは必要ですが、先ほども言ったように、サッカーではアスリート能力とか技術レベルの高さがより重要視されるし、頭の良さって、あくまでも違いを作るためのプラスアルファだと思っているので。

──戦術の進化とともに、指導者のレベルも上がっていくでしょうか?

 相手に対策された時に、監督がそれを上回るものを提示できるか、でしょうね。今は選手のレベルがどんどん上がっていって、判断力も研ぎ澄まされてきていますが、それでもピッチの上だけですべてを解決できるわけではないんです。チームとして同じ絵を描けるかどうか。プランAが通用しないとなった時に、監督がプランB、プランCを出していけるチームでなければ、どうしても手詰まりになってしまいますから。

──いわゆる戦術の引き出しが多い監督と言えば、シティのペップ・グアルディオラや、三笘薫選手のいるブライトンのロベルト・デ・ゼルビなどが思い浮かびます。三笘選手の持ち味を、デ・ゼルビ監督が引き出している部分も大きいですか?

 デ・ゼルビが志向するポゼッションサッカーの中で、三笘選手のドリブルが1つのアクセントになっているのは間違いありません。

 三笘選手の場合は、ポジショニングというよりも、仕掛ける時と仕掛けない時の使い分けの上手さに、賢さを感じます。自分に2人マークが付いてきたら簡単にボールを離すし、そうでなければ1対1の勝負を仕掛ける。最近は中に入ってプレーすることも多くなりましたが、とりわけオン・ザ・ボールでの状況判断、プレー選択が的確ですね。

──林さんが最初に名前を挙げられたベルナルド・シウバをはじめ、グアルディオラ監督率いるシティには頭のいい選手が多い印象があります。

 例えば、(ケビン・)デ・ブライネなんかは、技術、アスリート能力がハイレベルで、サッカーIQも高いパーフェクトな選手だと思いますが、彼もシティでペップという優秀な監督のもとでプレーしたことで、戦術的により洗練されました。現代で言えば、彼のような選手が頭のいい選手の代表格ですが、その背景に監督の指導力、ペップが与えた揺るぎない戦術のベースがあることも忘れてはならないでしょうね。

林陵平(はやし・りょうへい)

1986年9月8日生まれ、東京都出身。ヴェルディ・アカデミー、明治大を経て2009年に東京Vとプロ契約。その後、柏、山形、水戸、東京V、町田、群馬と渡り歩きながら、大型ストライカーとして活躍し、20年シーズンを最後に現役を退いた。寝る間も惜しんで試合をチェックする欧州サッカーマニアとして知られ、引退後はその圧倒的な知識量と戦術理解の深さで、解説者として引っ張りだこだ。21年1月末には、東京大学ア式蹴球部の監督に就任。23年10月9日をもって退任するまで、約3年にわたって関東大学サッカーリーグ東京・神奈川1部を戦うチームの指導にもあたってきた。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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