佐々木麟太郎の進学で注目される米大学野球 「選手の父」でもあるピッチングニンジャが明かすレベルと仕組み

丹羽政善

「オフ」に即席チームで戦うサマーリーグ

 カレッジ・ワールドシリーズが終わると、大学は夏休み。部活もオフだが、この時期は、様々な地域でサマーリーグが開催され、それぞれのリーグに属するチームから招待された選手は、地方都市でひと夏を過ごす。

「色んな大学の選手が集まり、チームを作って対戦する」とピッチングニンジャ。

 普段はライバルでも、夏だけは他校の選手と同じチームでプレーする。そこにはスカウトも姿を見せるので、大学のプロスペクトも参加する。普段は無名校でプレーし、スカウトに力を見せる機会を持たない選手にとっては、サマーリーグのどのチームでプレーするかが、その先を左右しうる。

「無名大学でプレーする選手らとプロスペクトが、一緒にプレーするんだ。そうするとレギュラーシーズンでは目にとまらなくても、サマーリーグにはスカウトもいるので、その前でプレーする機会を得る。そこで活躍することで、無名校の選手でもドラフトされるチャンスが生まれる。だからサマーリーグは意味を持つ」

 さて、佐々木はそのサマーリーグでデビューする可能性を探っているようだ。

 入学は9月。次のシーズンが始まるのは来年2月。あまりにも実戦から離れてしまう。入学すれば練習はできても、実戦機会が限られる。それであれば、サマーリーグに参加して、まずは水に慣れる、ということも選択肢というわけだ。

 ピッチングニンジャもその可能性を示唆するが、仮に大学の施設でも「十分な練習はできる」と話す。

「彼はサマーリーグにも出られると思うが、大学の施設も素晴らしいから、チームメートと実戦的な練習もできるのではないか。もちろんそれは本当の実戦には及ばないけど、いきなり試合でデビューするより、学校生活に慣れていくことも必要だから、焦る必要はない」

 大学野球の名門校であれば、マイナーリーグよりも、練習設備、環境が整っている。食生活も充実している。粗末な食事、過酷な移動などを強いられるマイナーよりも、野球に集中できる――授業には、出なければいけないが。

 また、大学は、コーチのレベルも高く、給料も高いため、いい人材が集まる。2019年からツインズの投手コーチを努めていたウェス・ジョンソンは、なんと22年のシーズン途中にLSUの投手コーチに転任。今年からジョージア大の監督に就任した。大学からメジャーへ引き抜かれるケース、またその逆もあるのだ。

 もちろん、佐々木は、それなりに最初は適応に苦労するだろう。ピッチングニンジャもこう指摘する。

「真っすぐの速さは体験したことがないレベルだと思う。確かにそこは大きな違いだと思う」

 トップの投手は、メジャーでも通用するレベルだ。

「プロの世界と比較するなら、(大学野球は)2Aぐらいのレベルだと思う。中にはすでにメジャーのレベルの選手もいる。(昨年のドラフトで1位指名された)ポール・スキーンズはドラフトされた後、すぐに昇格しても通用したと思う。それぐらい完成された投手だった」

 ただ、それも佐々木にとっては成長するためのステップ。

「彼のスイングを見る限り、アジャストできると思っている。パワーはあるのだから始動のタイミング次第じゃないかな。彼もこれまで日本の高校野球という高いレベルで戦っていたのだからやがて慣れるし、彼がさらに成長するにはいいチャンスではないかと思う」

 ちなみに大学の二刀流選手だが、そこまで多くはないという。しかし現在、フロリダ大にジャック・カグリオンという選手がいるそう。

「カグリオンは、もうかなり全米では有名で、カグリオンの飛距離はすごいし、さらに速い球を投げられる。もう少し制球が良くなれば、彼は投手として成功するだろう。でも打者としても魅力的で、とにかくパワーがある。制球が良ければプロでも二刀流をやらせてみたい」

 彼がドラフトされたとき、その指名したチームはどう判断をするのか。ところで、先ほど名前が上がったスキーンズ。もちろん、投手としてパイレーツにいの一番で指名された逸材だが、入学したときは捕手でもあり、2022年には優れた大学の二刀流選手に贈られるジョン・オルルド賞を受賞している。

 結局はどちらかに絞るケースが多いが、ジャイアンツは過去2年、ドラフト1位で二刀流選手を指名し、二刀流選手として育成する方針だ。

大学野球選手も「稼ぐ」ことができる?

 さて最後にもう1点、日本との違いに触れておく。

 実は、2019年9月から、カレッジ・アスリートもプロのようにスポンサーと契約し、収入を得ることが可能になった。それは「NAME, IMAGE, LIKENESS」の略から、NIL法と呼ばれる。

 大学は、テレビの放映権料などで莫大な利益をあげるようになった。一方でアスリートへの恩恵は少なく、選手らは不満を漏らしてきた。しかし、カリフォルニア州において、「カレッジアスリートが、氏名、画像、肖像の利用によって利益を得ることを阻止してはならない」という法律が成立し、その後、20を超える州が同様の動きを見せると、NCAA(全米大学体育協会)は、創設以来の「アマチュアリズム」という基本方針を転換せざるを得なくなった。

 これによって100万ドル以上の契約を結ぶアスリートも現れるようになり、ピッチングニンジャは「大学野球に関してはそこまでお金を得られないけど、フットボールとバスケットは別格」と説明する。

「アスリートというだけでそれを禁じるのは理不尽だ。大学は彼らで稼いでいるというのに。でもいまは自分の名前などを使ってスポンサーからお金をもらえるようになった。本来もっと早く認められるべきだった」

 なお、佐々木もこの恩恵を受けそう。

 学生VISAでは、稼げないのでは? という報道もあるが、専門の弁護士に確認すると、「当然、アメリカ人のアスリートと比べればやや複雑だが、そのようなことはない」と答えた。

「留学生であっても、その資格はある」

 ピッチングニンジャもこう予想した。

「佐々木が来れば同様にお金を稼ぐことができるだろう。彼の場合日本市場を独占できる。おそらく彼は多くの機会に恵まれるはずだ」

 さて、後編では、実際に大学野球を経験した選手に話を聞く。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント