引退後、初の大仕事に挑む解説者・小野伸二の矜持。アジアカップ制覇のポイントは「チーム力」

元川悦子

引退直後から超多忙な日々を過ごす小野伸二 【スポーツナビ】

 2023年12月3日のコンサドーレ札幌対浦和レッズ戦を最後に、26年のプロキャリアに終止符を打った小野伸二。18歳での1998年フランスW杯出場、21歳での欧州挑戦、2001-02シーズンUEFAカップ(現UEFAヨーロッパリーグ)制覇、2002年日韓・2006年ドイツを含めたW杯3回出場など輝かしい実績を残してきた天才がピッチを去ったのは、本当に寂しい限りだ。

 しかしながら、彼には次なるステージが待っている。引退直後はイベント参加やメディア露出などで多忙を極めていたが、2024年「小野伸二×DAZNプロジェクト」が始動。小野の現役引退までの日々、引退後の新たな人生のスタートに密着したオリジナルドキュメンタリーの配信を予定。そしてDAZNが全試合を配信するAFCアジアカップ カタール2023では日本代表戦を全試合解説することになる。

 解説者・小野伸二はサッカーファンに何を伝えてくれるのか。5度目の王者を目指す日本代表はどう戦うべきなのか。2000年レバノン大会優勝という自身の経験も踏まえ、注目ポイントなどを語ってもらった。

自然体の解説で自分の色を見いだしたい

――引退から少し経ちました。今の心境は?

 普段通りのシーズンオフを過ごしている感じで、サッカーをやめた実感もないし、忙しくて何かを考える時間もないですね(笑)。

 44歳の誕生日だった9月27日に今季限りでの現役引退を発表してから全く取材を受けてこなかった。それも協力してくれたメディアのみなさんのおかげなので、今は1つ1つこなしている状況です。

――1月からはアジアカップ2023の日本戦全試合解説という大仕事に挑みます。2022年カタールワールドカップで現地解説した経験もありますが、小野伸二解説のポイントとは?

 今まではあくまで現役プロ選手としてのゲスト解説だったので、メインの人たちが話している中で自分が感じたことを言う感じ。言いたいことを先に言ってくれたので、僕はあまりしゃべらなくてもいい状況が多かったですね(笑)。

 解説をやってみて思うのは、とっさに話すことの難しさ。ピンチやチャンスが目まぐるしく起きて、一瞬一瞬で人もボールも動くわけですから、そういう中で伝える作業はすごく大変。ピッチ上でプレーの判断をする時と比べると本当にどっちも難しいですよね。

――アジアカップで心掛けることは?

 自然体で自分が感じるままにやりたいですね。今までとは、伝え方も多少は違ってくるのかな。いろいろな諸先輩方から学んで「自分の色」を出したいと思っています。

2000年レバノン大会優勝経験から言えること

2000年レバノン大会に参戦した頃の小野伸二 【写真:ロイター/アフロ】

――日本は1992年広島、2000年レバノン、2004年中国、2011年カタールと過去4回アジアカップを制しています。小野さんも2000年大会に参戦し、決勝・サウジアラビア戦で途中出場し、優勝の瞬間を味わっています。その経験を踏まえて、アジアを制するポイントは?

 先発で出ている選手だけでは勝てないので、控え選手がいかにスタメン組をサポートできるかが大事ですね。同時に控え組のモチベーション維持も重要。お互いのコミュニケーションが必要だと僕は思います。

 2000年の自分はどちらかというと控え組だったんですけど、「途中から出るチャンスがあれば仕事をしてやろう」と常にいい準備をしていた記憶があります。3戦目のカタール戦なんかはメンバー総入替えで1-1で引き分けましたけど、いつ出番がきてもいい状態を作っておくことが大切なんですよね。

――小野さんの代表初ゴールは4-1で勝利した初戦・サウジアラビア戦でした。

 そうですね。そのサウジアラビアが最終的に決勝に勝ち上がってきたんですけど、大会中に監督が代わって全然違うチームになっていた。最後の最後に望月重良さん(SC相模原創業者)のゴールで勝ちましたけど、かなり苦戦した印象があります。

 いろいろなことが起きるのがアジアカップ。今回も選手たちが冷静に対応できるかどうかは見ものです。苦しい試合は絶対にあるし、それをどう勝ちにつなげていくかというのは本当に重要。今は精神的に強い選手が多いし、頼もしい限りかなという感じがします。

久保、三笘、遠藤、冨安……。みんな頼もしい

フェイエノールトでUEFAカップ制覇を果たした頃の小野伸二。後輩・上田綺世の活躍は今大会の1つの見どころだ 【Photo by Tim De Waele/Getty Images】

――小野さんの注目は、ご自身とポジションの重なる久保建英選手(レアル・ソシエダ)ですか?

 個人を挙げるのは難しいですけど、久保君、三笘(薫=ブライトン)君、遠藤(航=リバプール)君、冨安(健洋=アーセナル)君と、海外で活躍している選手が数多くいる。それは本当に心強い材料ですね。

 僕は最大のポイントは「チーム力」だと思っているんで、それを出すことが肝心。今の代表は誰が出てもそん色ない試合をこなせる力のあるチーム。十分戦えると思いますよ。

――右の伊東純也選手(スタッド・ランス)と左の三笘選手の間に小野さんがいたら、より創造性ある攻めが見られたんでしょうね。

 それは想像したことなかったな(笑)。2人はスピードがありますけど、自分で突破するタイプ。裏に抜ける感覚も持っていると思いますけど、最大の魅力は裏でもらうんじゃなくて、ドリブルで仕掛けること。だから僕がいてどうとかって感じじゃない。僕がリターンをもらうとかシュートにいく形になるのかなという気がしますね。

――実際に見てみたかったですね。小野さんは今の代表の得点力をどう見ています?

 得点力がすごく上がったと思うし、1人1人のクオリティも高い。チームとしてゴールを取っているので、安心して見ていられます。

――特にFWには、フェイエノールトの後輩に当たる上田綺世選手がいます。

 彼がフェイエノールトに行って成長したのは事実ですけど、代表のライバルとの競争によって力をつけたのかなとも見ています。

 上田君に対しては「フェイエの先輩だから何かアドバイスを与える」なんてことはないし、彼のすごさがあるからこそ、あのクラブに行けている。頑張っているなと感じますね。

――フェイエノールトのサポーターは今も小野さんのことを懐かしく思っていますよ。

 それはUEFAカップ優勝という大きな財産があるからでしょうね。フェイエノールトのサポーターは本当に選手のことをいつまでも忘れず、思い続けてくれる。それは選手としてすごく有難いこと。またいつか現地に行って、そういう思いをサポーターと分かち合いたいです。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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