サントリーサンバーズが史上初の快挙 「日本代表だけじゃない」セッター大宅が示した確かな結果

田中夕子

代表未招集でも、フィリップ・ブランからLINEで『おめでとう』

セッターの大宅(写真左)は世界にも劣らないVリーグのレベルの高さを感じていた 【(C)SUNTORY SUNBIRDS】

 まさに、その立場を経験したのが大宅だ。Vリーグで連覇を成し遂げたセッターでありながら、今年度(2023年)の日本代表登録選手37名に選出されるにとどまり、ネーションズリーグや五輪予選に招集されることはなかった。

 もちろんチームにとって最善の策を考えたうえでの選出、起用であるのは重々理解しつつも、「(22年に)アジアクラブ選手権を優先したからではないか、と考えたこともあった」と振り返り、初の世界クラブ選手権には「代表だけじゃないよ、という強い思いを持って臨んだ」と言う。

「代表に落選して、正直、めちゃくちゃショックだったし、悔しかったです。でも黒鷲旗(黒鷲旗全日本男女選抜大会※5月に開催)の時にいろんな選手から声をかけてもらって、ここで腐ったら終わりだと思ったし、アジアクラブで海外勢との試合に挑戦できる、というのがモチベーションとしてはすごく大きかった。考え方次第では、むしろ代表を外れたからアジアクラブに出られるチャンスをもらえたので、そこをつかみに行くか、行かないかは自分次第。

 今すごくバレーボールに対する思いが強くなっていて、正直に言えばそう思えるきっかけを与えられたのは、代表に選ばれなかったことが一番というか、すべてでした。だから、今振り返ると落選したことは悔しかったけれど“ありがとう”という気持ちもあります。自分が思ったレールじゃなくて、遠回りになる道だったとしても、チャンスがあるなら選んで挑戦すればいいし、今回世界クラブで結果を出せたというのは1つ、大きな自信と経験になりました」

 高さで勝る相手に対しても、「競り合った場面でこそクイックを使ってやろう、と思って、強い気持ちを持って使えた」とほくそ笑む。得点能力の高い選手たちをいかに、どの場面で使うか。ヒリヒリした戦いを楽しみながら試合に臨み、チームとして3位という結果に加え、個人でもトス成功数1位の記録を残した。

「(日本代表監督のフィリップ)ブランからLINEで『おめでとう』って送られてきたんです。少なくともLINEをしたくなるぐらいの印象は残せたのかなと思えたし、少しでも自分のやったことが評価されたのであればよかった。

 それがこれから自分のキャリア、代表にどうつながっていくかはわかりませんが、世界クラブ選手権に出て、3位になったことは自分にとって1つの大きな財産になったのは確かです。日本で1位、アジアで1位にならないと得られないので、もう一度日本のVリーグから権利を1つずつ獲得していきたいです」

セッター目線では世界クラブ選手権<Vリーグ?

 世界で戦う楽しさや難しさを感じる一方、セッターとしてもアジアクラブ、世界クラブとさまざまな経験を重ねる中で、大宅が「初めて感じた」こともある。日本のVリーグがいかにレベルの高いステージで、勝つのが難しい場所であるか、ということだ。

「高さやパワーだけを見れば、世界にはすごい選手はたくさんいるし、特にサーブは圧倒的にすごいの一言です。でも、ディフェンス面や精度を見れば、日本のレベルもすごく高いと感じたし、実際に日本では拾われるから簡単に落ちないボールも、世界相手には簡単に決められるシーンもありました。

 僕はセッターとして戦うことを考えると、Vリーグのほうが圧倒的にストレスもかかります。もしかしたらこれからのVリーグのほうが世界クラブよりも厳しい戦いになるかもしれないと覚悟しているし、実際世界クラブでも相当力を出し尽くしたので不安もありますが、それも自分たちにとっての試練。なかなか過酷なスケジュールですけど(笑)、今回の結果で日本のリーグも世界レベルにあると示すことができたと思っているので、自信を持って、上を目指してプレーするだけ。また1から頑張ります」

 Vリーグで1つ1つ積み重ね、得たチャンスを自らの力でつかみ取る。日本勢初の偉業も「過去のこととしてこれからに向かっていく」と力強く語る主将のもと、サントリーサンバーズがVリーグでどんな姿を見せるのか。そして日本の力が世界に通ずると示した相手に、V1チームはいかに戦うのか。

 大いに盛り上がった2023年のバレーボール界を締めくくる、年内ラストゲームは12月30日まで行われる。世界レベルの戦いを、日本で――。楽しみは、広がるばかりだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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