FA導入から30年 現代移籍史

FA制度が一新される未来は訪れるのか? プロ野球界のさらなる繁栄へ、今こそ議論のとき

中島大輔

保留制度の撤廃が実現した場合の変化

會澤翼選手会長(右)を中心に新たな動きを見せる日本プロ野球選手会。「球界活性化」のために議論を続ける 【写真は共同】

 選手会はFA権の取得期間短縮や補償制度の廃止を要求してきたが、交渉に進展がなく、今月下旬に行われるNPBとの事務折衝で正式に提案する予定だという。考えられるのは、保留制度の撤廃だろうか。

 球団にとって運営の根底にある保留制度の撤廃は極めて難度が高いものの、実現すれば球界のあり方は大きく変わるはずだ。例えば、以下の変化が考えられる。

(1)新人選手への契約金の引き下げ
→保留制度が撤廃されれば移籍が活発になり、球団は入団時に高い契約金で囲い込む必要はない。契約満了になった際、市場価値に見合ったオファーが提示される。選手は好条件のチームを選択できる

(2)ドラフト会議の廃止&ユースチームの創設
→保留制度の撤廃で移籍が活発になるため、ドラフト会議の必要性も見直される。球団は新人や若手に投資するより、アマチュア選手を育成したほうが経費を抑えられる。伸びしろも大きく、長期視点で育成できる

(3)戦力外通告を受ける選手の増加
→球団は一軍未満の若手を育てるより、外国籍を含め即戦力になる選手を獲得したほうが費用対効果は高い。選手は「戦力外」というレッテルをはられず、「自由契約」となって次の可能性を模索できる

 つまり、Jリーグのあり方に近づくイメージだ。戦力均衡より自由競争の比重が高くなる。保留制度が撤廃されれば球団はファームを縮小し、ユースチームにより力を注ぐだろう(FA制度を導入する際にもファームの撤廃が検討された)。学生野球との共存が不可欠になるが、“プロアマの壁”を撤廃する契機になるかもしれない。

 ファームの縮小により、選手の独立リーグへの流入が進むことも予想される。独立リーグ球団にはビジネスチャンスが増え、ファームリーグの拡大や一軍の球団数増というエクスパンションにつながるかもしれない。

 以上はあくまで可能性だが、すでに“予兆”がある。その一つが、2024年からハヤテ223とオイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブのファーム参戦だ。また、楽天に続いて巨人はU15の硬式野球チームを創設し、ソフトバンクも「ホークスメソッド」を打ち出してホークスジュニアアカデミーやホークスジュニアチームなどアマチュアにも浸透させていくと発表している。

 會澤の言うように、スポーツを取り巻く環境は大きく変化している。NPBが繁栄を目指すには、アップデートが不可欠だ。

 そのためには不可欠なことがある。NPBのコミッショナーが然るべき力を持ち、裏金やタンパリングなど不正を許さないこと。そして、ビジネス面でも球界全体をうまく回していくことだ。

 MLBは1994年から翌年にかけての選手会のストライキをきっかけに、コミッショナーにビジネス面でも力を与えたことが経営成長につながった。NPBも「MLB.TV」のようなビジネスを始めれば、成長の余地は大いにある。

 30年前、「球界活性化」を目指したFA制度が現在まで機能していないのは、本連載で見てきたように“見切り発車”したことが大きい。同じ轍を踏まないためにも、選手会と球団側には、日本球界として目指すものを議論することがまず必要になる。

(敬称略)


(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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