GPファイナル初優勝の坂本、銅メダル獲得の吉田 メダリスト二人の原動力は、一年前に味わった悔しさ

沢田聡子

今季世界最高得点をマークした坂本のショート 【写真:ロイター/アフロ】

「過去最悪」の一年後、頂点に立った坂本

 今季前半のクライマックスとなるグランプリファイナル・女子シングルでは、3回目の出場となる坂本花織が金メダル、初出場の吉田陽菜が銅メダルを獲得した。シニア7シーズン目を迎える23歳の坂本と、今季が本格的なシニアデビューシーズンとなる18歳の吉田。表彰台で並んだ二人は、いずれも一年前のファイナルで苦い経験をしている。

 世界選手権連覇中の坂本は、意外なことに今までファイナルの表彰台に立ったことがない。昨季のファイナルではショート首位に立ちながらフリーで失速し、5位に終わっている。2022年北京五輪銅メダル獲得、2022年世界選手権優勝と最高の結果を残した一昨季を終え、重圧とモチベーションの低下に苦しんだことが原因だった。一年前に味わった悔しさから奮起した坂本は、世界選手権で2度目の優勝を果たして昨季を締めくくり、再び世界女王としてファイナルの舞台に戻ってきた。

 今季のグランプリシリーズ2戦を連勝してポイントランキング1位でファイナルに進出した坂本は、最終滑走者としてショートプログラムに臨んだ。『Baby, God Bless You』に乗り、ダブルアクセルを皮切りに3本のジャンプをすべて成功させていく。エッジを深く倒すスケーティングでピアノの音色を表現し、ほぼ完璧といっていい演技をみせた。

 今季世界最高得点となる77.35をマークしてショート首位に立つと、記者会見で「とにかく今日ベストの演技ができたので、すごくほっとしています」と安堵した様子だった。

「今シーズンは結構序盤から気持ちが上がっていたので、落ち切ることなくファイナルに挑めているなという感じがあって。去年はやっぱりファイナルまでは気持ちがどうしても上がり切らなくて、オリンピックの後で『次は何に向かって頑張ればいいんだろう』という期間だった。去年すごく悔しい思いをしたのですが、今年はこうやって明るい気持ちで今までの試合に挑めているので、それはやはり去年までとは全然違うし、今この状況はすごくいい方向に向かっているなと感じています」

 昨年の苦い経験から正念場ととらえて臨んだフリーでも、自らの言葉を裏付ける強さを発揮する。ミステリアスな女性を演じる『Wild Is The Wind/Feeling Good』を、大きなダブルアクセルを決めて幸先よく開始。しかし、後ろに2回転トウループをつける予定だった3回転フリップの着氷でステップアウトし、単発のジャンプになってしまうミスが出る。得意としているフリップでの意外な失敗だったが、冷静に対処した。最後のジャンプである3回転ループの後ろに2回転トウループをつけ、成功させたのだ。力を出し切るという強い意志と、常にミスも想定して積んでいる質の高い練習がうかがえる、見事なリカバリーだった。

 フリー148.35、合計225.70というスコアをマークした坂本は、2位に20点以上の差をつけて優勝を果たした。記者会見で中央の席に座り、達成感を感じさせる口ぶりで演技を振り返っている。

「今日はフリップで少しミスをしてしまったのですが、それ以外はしっかり終えることができて、リカバリーもしっかりできたので。やるべきこと・今自分ができることは八割、九割できたかなと思います」

「去年は、まだファイナルの時は気持ちも葛藤している途中だったので。迷いがありながら試合をやったファイナルは、もちろん過去最悪と言ってもいいぐらい駄目だった。『それ以上にひどくなることはないな』と思ってファイナル以降の試合をやっていたので、今年はすごくモチベーションも上がっている。去年のような失敗が今年はまだないので、そこに関してはやはり自分自身『ちょっとずつ成長しているな』と感じる。気持ちの面で、去年よりは全然いい。今年は『普通にやればいけるな』というところまではきていて、それが試合である程度できたので、すごくほっとしています」

 坂本が手にした金メダルには、一年前の挫折から現在に至るまでの歩みが詰まっている。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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