星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録

1位で川上憲伸、5位で井端弘和をすんなりと指名 星野中日の1997年「会心ドラフト」の秘話

中田宗男

雨中のプレーに抜群のセンスを感じた井端

 2位で永井を狙っていたことは書いた通りだが、青山学院大の高須洋介を2位で推す声もあった。だが近鉄が逆指名の2位で狙っているという情報も掴んでいたので、高須を獲るならばこちらも逆指名枠を使わなければ獲れない状況だった。私は永井のほうを評価していたし、高須に逆指名枠を使うのはちょっと評価が高すぎるように思ったので反対した。

「だったら高須より面白い選手がいるんだけど」
 
 そう言って、亜細亜大の井端弘和の名前を挙げたのはスカウトの水谷さんだった。
 
 私は井端を見るために水谷さんと神宮球場に向かった。その日はあいにくの雨だったが、雨中のプレーには選手のセンスが表れやすく絶好の機会でもあった。
 
 井端はセカンドだったが、6 -4 -3のゲッツーでセカンドベースに入るタイミング、そして一塁への慌てない送球など、一見普通に見えるプレーの端々に抜群のセンスを感じさせた。二遊間の深い位置からの一塁送球にも肩の強さがうかがえたし、ショートが危なっかしいプレーをすれば、それを平気な顔をしてぱっとカバーをする。
 
 バッティングは追い込まれてからのアウトコースギリギリのボールもきっちりカットした。「あのボールに最後の最後にぱっとバットを出せるんか⁉ 」と驚いた。バットコントロールも抜群で、速そうに見えなかった足もストップウオッチで計ってみるとかなり速かった。
 
 プレーに派手さはないが堅実で玄人好みのする、野球センスの高い選手。そしてなによりも、中日にぴったりの選手だと思った。
 
 一緒に見ていた水谷さんに「3位でも獲れますか?」と聞くと、「下位でも獲れる」という。

「これはもう決定でしょ!星野監督に言いに行きましょう」
 
 その足で星野さんに報告に行った。

「高須は近鉄が逆指名でいくみたいです。でも高須よりも良いのがいてます。亜細亜大の井端です。ピッチャーからすると一番嫌なタイプです。何位でも獲れます!」

「お前等がそこまで言うなら、井端でいこう」
 
 こうして井端の指名が決まった。
 
 余談になるが、井端は入団後、2年間は一軍でほとんど使ってもらえなかった。井端が3年目のあるとき、当時の一軍ヘッドコーチの島野育夫さんに井端を使ってくれと頼みに行ったことがある。

「ファームにおる井端、目をつぶって一軍で使ってください。あいつはファームに置いていても目立ちません。一軍に置いたら初めて良さがわかると思います」
 
 島野さんも「目をつぶって使うように監督にもいうとくわ」と言ってくれ、実際に星野さんも「スカウトがそこまで言うなら一度目をつぶって使ってやれ」と井端を一軍の試合に使ってくれた。
 
 初めは代走、守備固めなどからチャンスを掴んだ井端は、時には外野も守るなどして一軍でも必要とされる選手になっていった。その後の活躍は皆さんご存知の通りだ。
 
 井端は高いレベルで使われてこそ生きる選手だった。二軍で残している数字だけではその能力を測れない選手もいるのだ。

【写真提供:カンゼン】

「星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した」。スカウト歴38年、闘将とオレ竜に仕え、球団の栄枯盛衰を見てきた男が明かすドラフト舞台裏。

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