「相撲の内容は一切わからない」行司は力士のどこを見ている? 歴33年、木村銀治郎が語る大相撲の裏側
多岐にわたる行司の仕事
そのほか、毎年選挙で選ばれる監督が3人。行司の仕事が円滑に回るように、事務的な仕事全般を請け負っています。最高位である立行司には、こういった役割はありません。
私はこれまで、監督以外の役割はどれもこれもしてきました。自分の出番の関係もあるので、みんな複数の部署を経験していきます。よく覚えているのは、天覧相撲のときのアナウンス。当時の天皇(現上皇)陛下ご夫妻がおふたりで来られた日に、アナウンスを担当しました。「天皇陛下と皇后陛下がお入りになります。皆さま拍手をもってお迎えください」といったことを話したり、私のアナウンスの後に君が代が流れたりと、いつもとは違う雰囲気なわけです。プレッシャーというか、なんだかドキドキして、無事に終わった後はぐったりしましたね(笑)。
行司は「なんでもできないといけない」
たとえば、函館から札幌までの移動は、東京からだと三河安城の手前くらいまでの距離があります。関東圏の人からすると「そんなに遠いんだ!」と思いますよね。しかも、特急電車に乗っても4時間かかります。なぜなら、途中に電化されていない区間があって、ディーゼルの特急で行かなくてはいけないからです。その知識があれば、「だからここは5時間かかるけれどバスで行きましょう」という提案ができます。こうした輸送係の仕事に関するあれこれは、拙著『大相撲と鉄道』(交通新聞社)にしたためましたので、よろしければぜひご覧ください。
若い頃から巡業に出て、常に周囲を気にしながら移動していれば、ここのサービスエリアはトイレが少ないから休憩はこちらのサービスエリアにしようといった、いろいろな気遣いができます。特に現代はインターネットがあるので、気になったらすぐに調べる。どんなことでも頭に入れておいて無駄な知識はありません。
部屋によっては、師匠や部屋の用事を任されたり、断髪式の準備をしたり、昇進パーティーや結婚式の準備をしたりと、私たちは常にさまざまな業務に追われています。行司はまさに読んで字のごとく、「行い司る」仕事です。行いとは大相撲の興行すべてを指し、それを司る仕事。つまり、行司はなんでもできないといけないんです。
行司は「なんでもできないといけない」と語る木村銀治郎。多岐にわたる仕事を丁寧に解説してくれた 【スポーツナビ】