連載:欧州サッカー23-24シーズンの論点は?

“欧州サッカーマニア”林陵平が推す注目若手7人 トップ3を占めたのは赤丸急上昇中のプレミア勢

吉田治良

4位:ジュード・ベリンガム(MF/20歳/レアル・マドリー)

マニアックな顔ぶれが並ぶ中、林氏が「やはり外せない」とリストアップしたベリンガム。プレッシャーもどこ吹く風で、移籍早々にマドリーで不動の地位を築いた 【写真:ロイター/アフロ】

 もう誰もが知っている選手で、ここでわざわざ取り上げなくてもいいのかもしれません。ですが、ドルトムントからマドリーに莫大な金額(約154億円)で移籍して、大きなプレッシャーがある中で、20歳のベリンガムがどんなプレーを見せてくれるのかは、やはり気になるところです。

 チームを率いるカルロ・アンチェロッティ監督は、すでに「ベリンガム・システム」とも言うべき、中盤ダイヤモンド型の4-4-2を採用し、彼をトップ下で使っています。実際にラ・リーガでのプレーを見て印象に残ったのは、「認知・判断・実行」のスピードの速さ。プレー選択が正確かつ迅速で、そこに技術も伴っている。

 イメージとしては、「動けるジネディーヌ・ジダン」ですね。ジダンほどの優雅さはありませんが、ジダンよりもアスリート能力が高く、より効率性の高いプレーをする。もともとボックス・トゥ・ボックス型の選手でしたが、いまはドルトムント時代よりもひとつ前の位置でプレーし、これまで以上にゴールに絡む頻度が高まっています。

 2トップのヴィニシウス・ジュニオール(8月末にハムストリングを負傷し、約1ヵ月の戦線離脱に)、ロドリゴとの関係性もいいですね。彼らがサイドに開いてできた中央のスペースに、まるでセンターフォワード(CF)のように飛び込んできます。さらに守備能力も水準以上。自分でボールを奪って、何もない状況から決定的なチャンスを作り出してしまう。なにより、20歳という若さで、あっという間にマドリーのレギュラーに収まった事実は驚きですし、間違いなくこれからの時代のスーパースター候補でしょうね。

「ジダンの5番」を受け継いだベリンガムが、マドリーでどんな成長を遂げるのか。しっかりと追いかけていきたいと思っています。

3位:エバン・ファーガソン(FW/18歳/ブライトン)

 まだ18歳というのが、ちょっと信じられません。この年齢ですでに規格外のパワーとスピードを備えていて、さらに足元の技術も繊細。若さに似合わず総合力の高いストライカーですね。ブライトンで一緒にプレーしている三笘薫選手も高く評価するファーガソンですから、その才能に疑いの余地はないでしょう。

 現代サッカーでCFに与えられるスペースは限られますが、その狭いスペースを個人で打開し、左右両足からシュートを打てる能力は、まさに天賦の才でしょう。誰かに教えられて身に付けたものではなく、天性のゴール感覚が備わっています。しかも彼の場合は「ボックス内限定」ではなく、エリアの外からも個の力でマーカーを剥がし、シュートまで持っていける。

 ストライカーらしい図太さもいいですね。屈強なディフェンダーに執拗にマークされても気持ちが折れることがないし、プレーに自信が満ち溢れています。

 チームにはイングランド代表のダニー・ウェルベックもいて、現状は完全にレギュラーというわけではありませんが、ポテンシャルは間違いありません。CFに多くのタスクを求めるロベルト・デ・ゼルビ監督の下でポストプレーなどに磨きをかけていけば、近い将来、必ずビッグクラブに引き抜かれるでしょう。

 数年後には、ロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)のような、何でもできるストライカーになっているかもしれませんね。

2位:アミーン・アル=ダヒル(DF/21歳/バーンリー)

抜群のスピードを誇るバーンリーのCBアル=ダヒルは、“第2のグバルディオル”にもなれる可能性を秘めている。同胞の指揮官コンパニの下で成長を遂げたい 【Photo by James Gill - Danehouse/Getty Images】

 マンチェスター・シティとの開幕戦で印象に残ったのが、バーンリーの21歳のセンターバック(CB)、アル=ダヒルです。

 身長187センチとサイズがあって、3バックのCBにも4バックの左サイドバックにも器用に対応できる。1対1の強さはもちろん、正確なフィードや持ち運ぶドリブルなど、ビルドアップ能力も非常に高いモダンなディフェンダーですね。

 ただ、特筆すべきはそのスピードでしょう。ハイプレスが当たり前となった現代サッカーにおいては、最終ラインの裏の広大なスペースをカバーできるだけのスピードがCBには必須ですが、アル=ダヒルの守備範囲の広さはプレミアリーグでもトップクラス。相手に入れ替わられても難なく追いつき、マンツーマンで対応できる。

 僕は3年くらい前から、今シーズンにRBライプツィヒからマンチェスター・シティに移籍したヨシュコ・グバルディオル(21歳)に注目していましたが、このまま順調に成長すれば、「第2のグバルディオル」にもなれるポテンシャルを秘めています。

 アル=ダヒルにとって心強いのは、同じベルギー人でCB出身のヴァンサン・コンパニが監督だということでしょう。現役時代にマンチェスター・シティでプレーし、ジョゼップ・グアルディオラ監督の薫陶を受けたコンパニは、攻守4局面のデザインが明確で、チームにしっかりと戦術を落とし込める優秀な監督。もし「今シーズン注目の監督ランキング」があったら、一番に推したいくらい(笑)。そんなコンパニの下で多くのことを学べば、アル=ダヒルの潜在能力はさらに引き出されるでしょう。

 昇格組とはいえ、バーンリーはとても良いチームです。アル=ダヒルもここで結果を残し、いずれはビッグクラブに羽ばたいていくのではないかと予想しています。

1位:モーガン・ギブス=ホワイト(MF/23歳/ノッティンガム・フォレスト)

林氏の今シーズン一押しのヤングタレントが、ノッティンガム・Fのギブス=ホワイト。将来のイングランド代表を背負って立つ、“動けるファンタジスタ”だ 【Photo by Clive Mason/Getty Images】

 今シーズン注目の若手の中でも僕の一押しは、イングランドのアンダー世代で中盤の要を担うギブス=ホワイトです。今夏のU-21欧州選手権で優勝したチームの大黒柱ですが、彼は絶対に来ますよ。

 一番の魅力は、プレッシャーがかかる状況でもほぼノーミスで、決してボールを失わないところ。ノッティンガム・フォレストでも、昨シーズンから司令塔として活躍していますが、簡単にボールをロストしないから、自然と彼にパスが集まるんです。

 イメージとしては「動けるファンタジスタ」。顔はちょっとラッパー系なんですけど(笑)、アスリート能力も高くて、しっかり戦えるし、走れる。先ほどベリンガムを「動けるジダン」と表現しましたが、どちらかと言うと効率的なプレーをするベリンガムに対して、ギブス=ホワイトはよりストリート系の香りを強く残した選手ですね。

 それでいて守備も精力的にこなすし、大柄ではありませんが、身体の強さもある。3-4-2-1のシャドー、4-2-3-1のトップ下、さらに4-3-3のインサイドハーフにも対応可能。フィニッシュワークに向上の余地ありとはいえ、チャンスメイク能力は一級品です。

 誰か似ている選手はいないかと考えてみましたが、「モーガン・ギブス=ホワイトはモーガン・ギブス=ホワイト」。イングランド代表のガレス・サウスゲイト監督も、「将来イングランド代表を牽引する存在になるだろう」と太鼓判を押していますが、オンリーワンの魅力を備えたプレーヤーと言えるでしょう。

 フィジカル全盛の昨今は、ファンタジスタ系のタレントが少なくなっていますよね。でも、だからこそシェルキやこのギブス=ホワイトのように、ボールを持っただけでワクワクさせてくれる選手から、目が離せないんです。

(企画・編集/YOJI-GEN)

林陵平(はやし・りょうへい)

【写真:YOGI-GEN】

1986年9月8日生まれ、東京都出身。ヴェルディ・アカデミー、明治大を経て2009年に東京Vとプロ契約。その後、柏、山形、水戸、東京V、町田、群馬と渡り歩きながら、大型ストライカーとして活躍し、20年シーズンを最後に現役を退いた。寝る間も惜しんで試合をチェックする欧州サッカーマニアとして知られ、引退後はその圧倒的な知識量と戦術理解の深さで、解説者として引っ張りだこ。21年1月からは東京大学ア式蹴球部の監督も務める。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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