世界ゴルフ選手権(WGC)の終焉と、賞金を増やすだけの取り組みの危険性

北村収

WGCの持つ「特別感」が高額賞金だけだったのが消滅の原因?

「HSBCチャンピオンズ」はコロナ禍がきっかけとなり開催されなくなったが、他の試合の消滅の原因の一つとしてLIVゴルフの登場や、米国PGAツアーの賞金の高額化が挙げられる。2021年に登場したLIVゴルフに対抗するため、米国PGAツアーも賞金の高額化を進め、今年は賞金総額2000万ドル(約28億円)の大会が数多く開催され、賞金総額の高さだけで、WGCの魅力を維持するのは難しくなった。

 別の見方として、WGCが高額賞金以外に特別感を持っていなかったとも言えるのかもしれない。

賞金以外でも圧倒的な特別感を持つ4大メジャー

 4月のマスターズ、5月の全米プロ、6月の全米オープン、7月の全英オープンと、今年も4大メジャーが開催され、注目度ではPGAツアーやLIVゴルフを圧倒している。しかし賞金総額においては、PGAツアーの主要試合やLIVゴルフに比べて低い。

 4大メジャーの賞金総額は、マスターズが総額1800万ドル(約25億2000万円)、全米オープンは総額2000万ドル(約28億円)、全米プロゴルフ選手権は総額1750万ドル(約24億5000万円)で、優勝賞金は315万ドル(約4億4100万円)。一方、PGAツアーのフラグシップ大会であるザ・プレーヤーズ選手権は賞金総額が2500万ドル(約35億円)。LIVゴルフは各試合の賞金総額が2500万ドル(約35億円)だが出場選手が48人と少ないため各選手への配分は高い。

 PGAツアー基幹試合やLIVゴルフの賞金がどんなに高額であったとしても、4大メジャーの方が注目度は高い。各メジャーは長い歴史を持ち、多くの偉大なゴルファーたちが優勝杯に名を刻んできたからだ。今年もその歴史に新たな名前が刻まれるという名誉を目指して、世界のトップ選手たちが競い合った。

賞金を増やす取り組みだけではWGCの繰り返しにならないか?

今年にマスターズでのジョン・ラームの優勝シーン。賞金だけでない名誉を求めて、世界のトップ選手が戦った 【Photo by Keyur Khamar/PGA TOUR via Getty Images】

 米国PGAツアーの2024年シーズンのスケジュールでは、「シグネチャー大会」と名づけられた8試合が発表された。これらの試合は高額賞金だけでなく、出場選手も少なく制限されており、一般のトーナメントでは150人くらいの出場ができる試合もあるが、「ザ・セントリー」は50人、他の7試合は70-80人となっている。2023年でなくなってしまったWGCと似たフォーマットになっている。

 高額賞金だけでファンの関心を引きつけたり、大会を準メジャーのような存在にするのは難しい。「シグネチャー大会」の8試合は米国PGAツアーの中でも伝統と歴史を誇る試合が多く、WGCの失敗を繰り返さないことを願うばかりだ。

 しかし、スケジュール発表の中で注目すべき点が一つあった。当初、全「シグネチャー大会」で予選カットを行う予定はなかったが、3つの大会で予選カットを導入することとなった。この変更は、WGCとは異なるアプローチとなる。

 この3大会は、タイガー・ウッズがホストする「ザ・ジェネシスインビテーショナル」、「アーノルド・パーマーインビテーショナル」、そしてジャック・ニクラウスがホストする「ザ・メモリアルトーナメント」である。これらの大会に予選カットが導入される背景には、タイガー・ウッズなどの影響があると言われている。

 これら3つの大会はPGAツアーの中でも長い歴史を持ち、ファンからの支持も高い。賞金の額だけでなく、大会自体の魅力で、これからもファンの心をつかみ続けることを期待したい。

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

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