J2首位攻防戦で町田勝利の立役者に パリ五輪エース候補・藤尾翔太のプレーに“劇的な変化”あり

大島和人

藤尾が振り返る2つのPK獲得

エリキ(右)とPKのキッカーを1本ずつ分け合った 【(C)J.LEAGUE】

 藤尾は「相手のサイドバックがかなり高いところに張り出してくるので、その間を突いて行こう」(黒田監督)というゲームプランのキーマンだった。ファウルに阻まれたものの、彼のスピードやDFの身体を入れる強さ、鋭さがPK獲得の決め手になった。

 藤尾自身は1点目のPK奪取についてこう述べる。

「準弥くんからボールをもらったとき、『あそこで前を向いてゴールに向かわれると、相手からしたら怖いやろ』と思って、間を抜こうとしました。あのスペースは狙っていたけれど、いいボールが来た。それがゴールにつながってよかった」

 2点目のPKにつながった抜け出しはこう説明する。

「1回落ちたときに相手も食いついてきたので、タイミングで抜け出して、あとはボールが来るかどうかだった。(松井)蓮之がよくいいボール出してくれて、いい感じに入れ替わった」

 1点目はエリキが任されたPKキッカーも、2点目は藤尾の立候補が認められた。

「1点目はエリキにあげたので、2点目はさすがにくれるやろと思って。エリキが蹴るみたいな雰囲気はあるけれど『いいよ』みたいな感じでした。エリキも(1点決めて)満足したんやと思います」

「1回仕掛ける」という意識変革

 藤尾は自らの変化についてこう口にする。

「ボールを持ってすぐ叩くのでなく、スペースがあったら仕掛けることを少し意識しています。ボールを叩いても、次のボールは来うへんな、ゴールにもあまりつながってないな……と思い始めていました。1回仕掛ければ相手も寄ってきて、パスを出したところも空きます。1回やってみようとしたら案外できたので、そのまま継続しています」

 彼が昨シーズン所属していた徳島は、ボールを握ってじっくり崩すスタイルだ。しかし町田の攻撃はゴールへ直線的に向かう狙いが多い。そんなチームの中で、藤尾の新スタイルがハマっている。もちろんコンディションの上昇、ウエイトトレーニングの成果もあるだろうが、「意識変革」が7月以降のブレークを生んだ最大の要因だ。

 町田はエリキがJ2最多の17得点を決めているエース。またエリキに限らずFWにも献身を求めるチームだ。ただ藤尾がいい意味でエゴを出し始めたことが、磐田戦も含めた結果につながっている。

中学時代に見せていた片りん

 藤尾は「ドリブラーじゃない」と自認し、実際にセレッソ大阪U-18時代は前線で張るプレーが多かったという。ただし、実は自らボールを運べるタイプだった。

 筆者が彼のプレーを初めて目撃したのは2016年8月の日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会。藤尾はリップエースSCのFWとして、初出場ながらベスト8入りに貢献し、大会の優秀選手にも選ばれる活躍を見せた。

 リップエースはドリブラーを並べる超技巧派スタイルで、迷彩柄のユニフォーム、主力はゾロ目の背番号という“キャラの立った”クラブだった。同大会のレギュラーには松原颯汰(ジェフユナイテッド千葉)、樺山諒乃介(サガン鳥栖)、土肥航大(FC今治)らがおり、全国大会初出場メンバーからは藤尾も含めて4名がJクラブに進んでいる。試合には絡んでいなかったが松原、樺山と同じ「02年世代」には中島大嘉(名古屋グランパス)もいた。

 「背番号99」を背負っていた藤尾は、177センチ(当時)の長身でボールを持つ姿勢、運ぶプレーに光るものを見せていた。自分はむしろ中学時代の印象が強かっただけに「やってみたら案外できた」という証言には納得感がある。

同世代のライバルたちは?

 町田加入後の体重増は「1キロちょっと」とのことだが、藤尾は身体的な成長について記者へこうアピールしていた。

「公式のプロフィールは180センチ・67キロですけど、それは多分高1から変わっていません。今は182センチ・76キロなので全然違います。変えて欲しいですけど、言うのを忘れている。書いといてください」

 2024年夏に開催されるパリオリンピックに向けた男子サッカー代表の出場資格は(本大会のオーバーエイジを除くと)2001年1月以降の生まれ。この世代のアタッカーは“別格”の久保建英(レアル・ソシエダ)を筆頭に斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)、鈴木唯人(ブレンビー)、小田裕太郎(ハーツ)ら海外組も顔を揃えている。佐藤恵允(明治大)のように、大学から直接ドイツのクラブ(ヴェルダー・ブレーメン)に進む人材もいる。

 一方でJ2とはいえ首位・町田で目覚ましい活躍を見せ、大物外国人FWとレギュラー争いを繰り広げている藤尾の台頭はインパクトが大きい。元からポテンシャルはあったはずだが、この数カ月で一気に殻を破った。積極性、力強さを手にした彼にも「世界」を目指す資格はある。22歳の本格派ストライカーが見せる成長、プレーにぜひ注目してほしい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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