「勝っている」のに開幕後も大量補強を続けるJ2町田 黒田監督が新加入選手をすぐ生かせている理由

大島和人

出番を減らした選手はどう受け止める?

奥山政幸(写真手前)は先発から外れている 【(C)J.LEAGUE】

 一方で新加入選手がピッチに立てば、弾き出される選手もいる。それはプロサッカーの少し切ない現実だ。さらにお金があれば選手は獲得できるが、才能を集めればすぐ結果が出るわけでもない。新顔の戦力化にはオフピッチも含めたチーム全体の「組織力」「カルチャー」が必要になる。

 奥山政幸は2017年に町田へ加入してから7シーズン、左右のSBとしてほぼ全試合に先発をしていた30歳だ。相馬直樹、ランコ・ポポヴィッチと監督は交代しても、堅実な対人守備やフィードを評価されてきた。今季はキャプテンも任され、開幕から右SBのレギュラーとして起用されていた。ただし、この3試合はベンチスタートだ。

 奥山はチーム内の競争についてこう口にする。

「本当にベンチ入りも難しいし、レギュラーを争うのは大変です。もちろんストレスはかかりますけど、ただ選手としてマイナスではないと思います」

 先発できない、ベンチ入りできない選手は当然ながら悔しい思いをする。しかしその感情をチーム、個人として“活用”する方法もある。

「自分が試合に出るんだという『思いの総和』がチームの力になると思います。スタートのピッチには11人しか立てないですけど、悔しさもしっかりと持ちながら、自分が入ったときに何をするのかを考え、何かを成し遂げてやるという思いを持った選手が町田には揃っている。それがチームとして、今のパワーを生んでいると思います」(奥山)

先輩から学んだもの

 奥山は町田のチームカラー、伝統を強調する。

「ゼルビアは今まで本当に真面目な、素晴らしいパーソナリティーを持った選手が揃っていました。(中島)裕希さん、(深津)康太くんはもちろんだし、(李)漢宰さん(現クラブナビゲーター)が選手だったときもそうでした。他にも名前を挙げたらキリがないくらいです。そういう方はベンチで悔しい思いをしながら、自分が出たときには何を求められるか、どのような仕事をするべきかを理解して実践していました。その姿を見てきたからこそ、自分もどう振る舞うべきか理解できています。サッカー選手である以上、それ(先発)を目指すのはもちろんです。ただ与えられた立場で自分の役割を全うすることも、一つのプロフェッショナルだと思います」

 岡山戦の奥山は鈴木に代わって72分にピッチへ入り、守備固めの役割を果たした。先発から外されても、先輩から学んだものを実践している。

 試合に出ていない選手、特にベテランがモチベーションを落とさず準備に取り組めるチームは強い。確かに町田はスモールクラブだった時期から、そういう存在が“土台”を作っていたたクラブだった。新加入選手が溶け込みやすい家庭的なカルチャーも、まだ残っている。大手IT企業の傘下に入った今も、そこは変わらない。

 試合になかなか絡めない選手の振る舞いと、それを培うチームの文化も、黒田監督の“剛腕”を支えている町田の強みだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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