「ライバル」前田悠伍の背中を追いかけて 大阪桐蔭の10番・南恒誠が夏に秘めていた思い
「何事にも誠実に」自分の投球と向き合い、役割を果たす
チームは決勝で敗れて甲子園出場は果たせず。しかし、南は真摯に自分の投球と向き合い、役割を果たした 【写真は共同】
「夏の戦いの中でミスは必ずあるので、そこは最小失点に抑えられて良かったです。前の日の練習では投げ込んで準備はできていたし、状態はしっかり上げられていました」
5回2失点で境亮陽(2年)にバトンを渡したが、守備でリズムを作り、食らいつく箕面学園を相手に、味方打線が手こずった。延長10回のタイブレークまでもつれ込んだものの、2番・山田大成(3年)のサヨナラ打で試合を決め、苦しみながら決勝進出を果たした。
「良い結果が出れば早いイニングで終われる試合もあったけれど、今年は(コールド勝ちではなく)9回を戦うつもりでやろうとみんなで言い合ってきました」
今年の大阪桐蔭は昨年までのように長打で圧倒できるわけではなかった。だからこそピッチャーの粘りは重要だ。昨秋は大車輪でマウンドに立ったエースの前田の登板が少ない中、南の粘りと意地が、夏の戦いでは必要不可欠だった。
「夏は負けたら終わりなので、ここでしっかりやり切るという覚悟を持って投げられたと思います。ここで出し切らないと、と思いながら投げてきました。ゼロに抑えられた試合は良かったですが、まだまだ気持ちの持っていき方がうまくいかなかったです」
帽子のつばには達筆なチームメイトの村本勇海(3年)に頼んで書いてもらった「誠」という文字がくっきりと記されている。自分の名前の一部でもあり、好きな漢字でもあるからだ。
「何ごとにも誠実にという意味を込めて、この言葉にしました」
野球は確率のスポーツとも言われている。いかに打たれる率を低くできるかを考えながら投げ込みを重ね、準備をしてきた。それに加えて、今夏は大阪大会の初戦で先発のマウンドを任されたように、責任を負う立場になり背負うものが増えたことを実感した。下級生の多い投手陣の中で、自分がやり切らなければならない―。その覚悟を1球に込めた。そのお陰で、今までのように予定より早い降板や、イニングの途中降板をすることはなかった。任されたマウンドで、自分の役目はやり切った。
最後の最後に敗れて夏の甲子園出場は果たせなかったが、最低限の自分の思いはマウンドで体現できた。「ここまで2年半、頑張ってこられて良かったです」。少ない言葉に、これまでにない力がこもっていた。
涙でにじんでいた目はすでに乾き、新たな決意が宿った。
まだまだ成長できる。そう信じて、次のステージに向かう。