姫野和樹が明かす「絶対に日本代表しかやらない」キツいトレーニング 名将ジェイミーは何を狙っていたのか?
求められるのは「ゴールを駆け抜ける」意識
ラグビーだけでなくサッカーやバスケットボールなど、世界中のスポーツ・シーンで行われているスタンダードなテストで、10秒のインターバルを挟みながら決められたタイム内での20メートル走を延々繰り返す、というもの。回数を重ねるごとにだんだん短くなっていく制限時間に2度遅れたらそこで終了。終了した選手から抜けていく。つまり、長く残れれば残れるほど、持久力、回復力が優れている選手という判定になる。
このテストの憎いところは、体力、フィットネス能力の低い選手のほうが先に体力をすべて使い果たしてしまうので早く終われるという点だ。逆に、フィットネス能力が高い選手ほど、力を出し切るまで、自分の体力が尽きて空っぽになるまで、長時間全力で走り続けることになる。
フォワードの中ではフィジカルの能力が一番高いのは〝ラピース〟ピーター・ラピース・ラブスカフニだ。ラピースは本当にフィジカルモンスターで、ウェイトトレーニングだと彼と僕は同じくらいだが、フィットネスでは彼が1番、僕は2番という位置付けだろうか。だから、Yo-Yo テストになると、僕やラピースは20分も30分も走り続けることになる。
終わりが見えないものが一番しんどい。
どんなに厳しいトレーニングでも「ここまでいったらOK」「そこで終わり」というゴールや数値があれば、人は誰でもそれを目指して頑張れるものだ。
だが、このテストにはそれがない。
終わりが決められていない中で全力を出し続けなければいけないのは、メンタルも激しく消耗していく。もはや〝無間地獄〟だ。
この猛烈に辛いテストが、代表合宿1か月間のうちになんと2度も行われる。
通常、このテストはどんなスポーツのどんなチームでも、年間に1度、せいぜい半年に1度程度しか行われない。持久力を短期間に何度も測定しても、あまり意味がないからだ。
それが1か月間で2度。
「頭おかしいんじゃないかな」と僕だけではなく、選手全員が思っていたはずだ。
実は、このテストでジェイミーが見ていたものは記録や持久力ではない。
「誰が、最後まで全力で走るのか」
彼が知りたかったのは、その一点だ。
極限に苦しい時、どんな状況でも、もう1歩を踏み出せる選手、自分の持てるエナジーのすべてを絞り出せる人間かどうか。ジェイミーはそこを見ているのだ。
だから、測定結果的に良い記録を出しても、ゴールラインを余裕を持って越えていたような選手は評価されない。記録自体は悪くても、最後の最後、ゴールラインに倒れ込むようにダイブしてなんとしてでも制限時間内に入ろうとする選手が評価される。
大事なのは結果じゃない。
自分の全てを、最後の1滴まで絞り出せるかどうかだ。
ジェイミーからの、そういうメッセージだ。
こうしたトレーニングは、世界の強豪国を見渡しても絶対に日本代表しかやらないし、やれない。断言できる。どんなにキツい厳しいトレーニングでも、「全部、真面目に取り組む」という国民性を持っているのは日本だけだ。
それを裏付けるような、こんな笑い話がある。
前任のエディー元ヘッドコーチは日本代表ヘッドコーチを退任した後、イングランド代表のヘッドコーチに就任したのだが(2023 年7月現在、オーストラリア代表ヘッドコーチ)、彼は日本代表の時と同じように練習開始時間を早朝5時に設定した。
だが、イングランド代表の選手は誰1人、グラウンドに来なかったそうだ。
「朝5時でもちゃんと全員来る」というのが日本代表、日本という国の真面目さであり我慢強さを表していると思う。
そして、それこそが、日本代表の大きな武器の1つでもある。
書籍紹介
【写真提供:飛鳥新社】
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選手として、チームのキャプテンとして、これまでのラグビー人生の中で学んできた、考え方や意識作り、自分との向き合い方、「弱さ」の受け入れ方、目標設定術といった姫野流セルフコーチング・メソッドからリーダー論、組織マネジメント論までを余すところなく書き下ろし。ラグビーファンの間ではお馴染みの、姫野さんが7年間にわたって書き溜めているラグビーノート”姫野ノート”の一部も初公開&収録しています。
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