琉球ゴールデンキングスが証明した「団結の力」 Bリーグ初優勝を支えたコート内外の強みとは?

大島和人

「その日のいいところ」を組み合わせる

28日の第2戦はコー・フリッピン(右)が前日から一転して大活躍 【(C)B.LEAGUE】

 フリッピンは沖縄出身の母を持つアメリカ育ちのコンボガード。188センチ・75キロと細身だが、ハンドラーとして高いスキルを持ちつつ、軽々とダンクを決めるアスリート性も魅力だ。

 第1戦のプレータイムは10分以下で、3回のターンオーバーを喫するなど出来も悪かった。ただし2戦目は27分のプレーで21得点8アシストを記録し、勝利の立役者となった。レギュラーシーズンは成功率が26.9%にとどまっていた3ポイントシュートも、50%の成功率を記録した。

 松脇は185センチ・88キロのSG/SFで、外国籍選手とも難なくマッチアップできる守備力の持ち主。牧は188センチ・88キロのSGで、クレバーで周りがよく見えている。二人にフリッピンほどの爆発力はないものの波が小さく、ロールプレーヤーとして機能していた。攻撃のメインオプションにはならなくても、空いたらしっかり打って決める怖さは間違いなくある。二人を合わせると第1戦で15点、第2戦は11点を決めていて、これも琉球のボーナスになった。

 キャプテンの田代直希は第1戦の後に、こう述べていた。

「マツ(松脇圭志)の良さがあったり、牧(隼利)の良さがあったり、人それぞれの良さがあります。層の厚さと、その日の“いいところ”をうまく組み合わせられるのが僕たちの強みです」

 フリッピンは“波”のあるタイプだが、第2戦の後半は乗っていて、周りも彼にボールを預けた。まさにチームの“波長”があった瞬間だった。セカンドユニットがチームを支える、その日その時ごとのいいところを組み合わせる琉球らしい戦いで、彼らは強敵を退けた。

入場料収入で他クラブを圧倒

キングスは観客数もB1のトップ 【(C)B.LEAGUE】

 琉球はBリーグ最多の観客数を誇る人気チームでもある。第2戦の横浜アリーナに駆けつけた13657人のうち、沖縄県在住の観客は1800名以上。距離的には完全に“アウェイ”だが、他の都道府県在住のブースターも含めて、会場の半分強は琉球を応援するファンだった。

 Bリーグが昨年12月に発表した各クラブの決算概要を見ると、別の側面から彼らの強さが分かる。営業収入(いわゆる売上)は19億7358万円で、千葉(21億2563万)に次ぐ2位。入場料収入は最多の7億7957万円。千葉、宇都宮ブレックス、川崎ブレイブサンダースのような人気クラブでも3億前後だから、段違いのレベルだ。

 今季は観客数が約1.5倍に伸びているため、入場料収入もほぼ確実に10億円を突破する。この額は“箱”の大きさが違うJリーグの人気クラブと比べても、同等以上の水準だ。年間の総観客数は20万人強とJ上位の3分の1以下なので、琉球はそれだけ単価が高い。

 集客では2021年春に開業した沖縄アリーナが、彼らのアドバンテージになっている。これはクラブが地域の象徴として認知され、さらに木村達郎・前社長が中心となって行政との関係を築いたいわば自力。アリーナ建設については他クラブも追随するはずだが、お客の“濃さ”にはまだ差があるだろう。

証明した「団結の力」

沖縄県民に支えられたキングスの初優勝 【(C)B.LEAGUE】

 首都圏に比べてスポンサーが集まりにくい地域性、大企業の資本や信用を生かせない経営体制は弱みと言い得るかもしれない。しかし琉球は一人ひとりのブースターが声援だけでなく「お金」でもチームをしっかり支えている。トップチームの人件費も経営規模の割には抑え気味だが、それでも「全員バスケ」「団結」で結果を出している。

 優勝を決めた直後の会見で、沖縄でのべ6年を過ごしている桶谷HCはこう口にしていた。

「沖縄という本当にちっちゃい島で、日本一になるのは沖縄の人たちにとってかけがえのないものです。自分たちは代表して戦っているだけで、県民の皆さんからサポートしていただいているからこそ頑張れる。おらが県を愛して、バスケットを愛して……。地域密着で日本一になれたところには、価値があります」

 ブースターも選手も個でやれることは限られる。それでも人と人が力を上手く合わせられれば、想像以上に大きな夢を達成できる――。コート内はもちろんオフコートの人材、ブースター、県全体による「団結の力」を証明した、琉球のCS初優勝だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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