ヌートバーが振り返る侍ジャパンとWBC優勝 「夢」の実現後に再び披露した満面の笑み
WBCを終えて「日常」に戻ったヌートバー。カージナルスの主力として奮闘を続ける 【Photo by Ezra Shaw/Getty Images】
憧れだったイチローとの対面
どうしたの?
「いま、中継チームからもらったんだ」
ただの飾り? 実際に使えるの?
「使えるらしいよ」
そういうと彼は、いつもの人懐っこい笑みを向けた。
ヌートバーといえば“ペッパーミル・グラインダー”。いまさら説明の必要はないが、塁に出たときなどにグラインダーで胡椒を挽くパフォーマンスが、気づけば日本のファンに間にも浸透した。簡単にいってしまえば“粘り強く”という意味が込められているが、中継チームはどこでどう手に入れたのか。
かつてカージナルスで投手として活躍し、現在はテレビ解説を務めるリック・ホートンに聞くと、「我々みんなで、球場から車で10〜15分ぐらいのところにある『ソルティーズ』というレストランへいったんだ。そこでサラダを頼んだら、『胡椒をかけますか?』と聞かれて振り向いたら、ウエイターがあの巨大なグラインダーを持っていたんだ」と教えてくれた。
アメリカでサラダを注文すると、しばしばそう聞かれるが、その店では、パフォーマンの意味も込めて、巨大グラインダーで胡椒を挽いていたという。
「ラジオのプロデューサーが、『それは売っているのか?』と聞いたら、売り物ではないが、新しいものがあれば、お売りしますよとのことだった。じゃあ、ってみんなでお金を出し合って買ったんだ」
グラインダーには、中継チーム全員のサインが入っていた。
そのあとヌートバーは、すぐさま地元メディアに囲まれた。その少し前にイチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)と対面を果たしており、どんなやり取りがあったのか、さっそく聞かれたのである。
日本人メディアには試合が終わってから対応。最初は試合に負けたこともあって暗い表情だったが、イチローについて話しているうちに、目が輝き始めるのが分かった。
「生ける伝説だからね、彼は。ずっとあこがれてきた。だから、彼と会えたことは特別だし、すごい優しくて、何を聞いても、喜んで答えくれた。多分、この経験は一生、忘れないと思う」
どんなことを聞いたの?
「走塁、守備、彼のアプローチ、昔といまの野球の違いなどを聞いた。なんか、子供がイチローに聞くような基本的なことばかりだったけど、昔からずっと聞きたかったことが聞けて、最高の瞬間だった」
「この1、2ヶ月は信じられないことばかりだよ」
攻守にアグレッシブなプレーと人懐っこい笑み。ヌートバーはすぐに侍ジャパンに溶け込んだ 【Photo by Yuki Taguchi/WBCI/MLB Photos via Getty Images】
1月に電話でインタビューを行い、WBC(ワールドベースボール・クラシック)期間中は毎日のように顔を合わせたが、まず、3月は大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)と一緒に戦い、前日はイチローに会う機会を得た。「人生、悪くないね?」と振ると、「むしろ、最高だよ」と頬を緩めた。
「翔平たちとプレーしたことはいまでも信じられない。彼らは日本で誰からも尊敬されていて、そして昨日は、誰よりも尊敬されているであろうイチローと会うことができた。この1、2ヶ月は信じられないことばかりだよ」
一連の狂騒曲は、3月2日の羽田空港から始まった。午前5時すぎに着陸。入国審査を終えて到着ロビーに姿を見せると、多くのファン、メディアに囲まれた。
ただ、そのこと自体は意外にも「想像していた」という。「(チームメートで韓国代表の)トミー・エドマンが空港で会見をしたと聞いていたし、その前にいくつか(日本のメディアから)取材を受けていたから」
よって、肌で熱狂ぶりを感じたからといって、「さらにプレッシャーを感じることはなかった」という。「WBCがどれだけ特別かは母親と代理人から聞いていたから」
それよりも、日本のチームメートに受け入れられるのか。初対面の選手ばかりで、言葉の壁もある。選ばれたときからそこが不安だった。
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