ヌートバーが振り返る侍ジャパンとWBC優勝 「夢」の実現後に再び披露した満面の笑み
ダルビッシュ有、大谷翔平との初対面
ヌートバーは改めて大谷翔平を「別格」と評した 【Photo by Megan Briggs/Getty Images】
それは結局、保険の問題など、様々な理由で実現しなかった。よって、WBC初戦まで1週間しかない状況での合流には焦りもあった。
ただ、そんな不安を察し、解消してくれたのがダルビッシュだったという。
「初めて会ったとき、正直緊張した。彼にいい第一印象を与えたいと思っていた。でも、彼こそが、チームに馴染めるよう、色々手助けをしてくれたんだ。本当に色んな面で」
英語で会話が出来ることも彼を安心させたが、今回のWBCでは、多くの選手がダルビッシュの気遣いに救われた。先輩たちに圧倒され、気後れしていた宇田川優希(オリックス)を食事に連れ出したのもダルビッシュ。今永昇太(DeNA)も、ダルビッシュから様々なアドバイスを受けたと明かした。ダルビッシュ本人は決して本調子ではなかったが、その存在感が、チーム全体に安心を与えた。
名古屋でチームに合流したヌートバーは、大谷にも初めて会ったが、同じ組で打撃練習をすることになり、「へこんだ。自分にがっかりした」とショックを受けた。
「打撃練習であんな打球を見たことがなかった。異次元というか別格だった」
対抗しようと力が入った。自分もメジャーリーガー。しかし、「初日であきらめたよ」と苦笑。「絶対無理だと思ったから」。それからは、「試合のために必要なことに専念するよう心がけた」という。「だってあれはもう、別格だから」。
夢の実現、歓喜のあと
アメリカ代表の怖さを誰よりも感じていたヌートバー。優勝を決めると「安堵」して歓喜の輪に加わった 【Photo by Daniel Shirey/WBCI/MLB Photos via Getty Images】
よってここで、米国とのWBC決勝——九回2死でマイク・トラウト(エンゼルス)を迎えた場面まで一気に時計を進める。
「併殺で2アウトになって、トラウトが打席に向かってみんな興奮していたけど、こっちはそうはいかない」とヌートバー。
ホームランで同点。長打を打たれれば、一気に流れが変わりかねない。トラウトの後ろを打つポール・ゴールドシュミットとノーラン・アレナドは、カージナルスのチームメートでもあり、誰よりも怖さを知っている。
「あの打線は、なにが起こるか分からない。トラウトの後はゴールドシュミットとアレナドだった。その後はシュワバー(フィリーズ)だったけど、とにかく打線がすごいから」
長打を警戒し、「かなり深めに守っていた」とヌートバー。それぞれの打球方向の傾向もイメージ。「しっかり頭を使ってシナリオを考えた」。
大谷がトラウトを三振に仕留めるとすべて杞憂に終わったが、「あの打線はやっぱり怖かったよ」。心底ホッとし、そのまま歓喜の輪に向かった。
安堵した理由は他にもあったよう。
「母親の生まれ育った日本のファンをがっかりさせたくなかったし、日本を代表して戦う限り、イチローがWBCで築き上げたものを傷つけたくなかった」
ヌートバーが侍ジャパンでプレーすることに憧れたのは小学生の時。「やっぱり、イチローの決勝打(2009年WBC、韓国との決勝)じゃないかな? あの盛り上がり、あの熱量。あんなのをみたら、誰だっていつかプレーしてみたいと思うよ」。
その夢が実現した。すると今度は、その重みを実感した。日本ではずっと陽気に振る舞っていたが、実際は相当なプレッシャーで、イチローと話したときにはそんな思いも吐露したそうだ。
さて、イチローと会った後でクラブハウスに戻ったヌートバーは、クラビー(クラブハウスで働く人たち)に、「マリナーズ・ストアでイチローのユニホームを買ってきてくれないか」とお願いした。
「恥ずかしいとか、いっていられない。こんなチャンス、絶対に逃せない」
シアトル遠征中にサインをもらえれば、と思っていたようだが、初日の試合後、クラブハウスに戻るとイチローのサイン入りユニホームが、すでに届けられていた。
ヌートバーは満面の笑みで、みんなに披露した。