J1月間MVP 新潟・伊藤涼太郎が語るブレイクの理由「リキさんとの出会いが大きい」

飯尾篤史

嬉しかったミシャさんの前でのゴール

3節の札幌戦ではプロデビューさせてくれたペトロヴィッチ監督と再会。恩師の前でゴールを決めてみせた 【(c)J.LEAGUE】

――伊藤選手のもうひとつの特徴として、遊び心あるプレーも挙げられると思います。作陽高時代や浦和時代からテクニカルなプレーを披露していましたが、こうしたプレースタイルの原点はどこにあるんですか?

 サッカーを始めたときから、海外の選手のプレー映像を見るのが大好きで。昔だったらロナウジーニョだったり、最近だとメッシやネイマールだったりのプレー映像を見てきたんですけれど、本当に見ていて楽しいプレーをするじゃないですか。自分もこういう選手になりたいなって、思いながら見ていたので、今の自分の魅せるプレースタイルの原点はそこにあると思います。それこそ子どもの頃は、チームの勝ち負けよりも自分がどれだけ良いプレーを出せるかどうかにこだわっていたというか、そこに自分の機嫌が左右されていたので、魅せるプレーはずっと意識してきましたね。

――子供の頃は誰しもそういう部分があると思いますが、そこからチームの勝敗を背負う責任が芽生えたのはいつ頃ですか?

 高校時代ですね。

――やはり高校選手権に出られる、出られないという経験によって?

 まさに、そうです。1年のときから選手権予選に出させてもらって、県大会の決勝で負けたんですけれど、そのときに初めて勝ち負けって本当に大事だなって感じました。1年生の自分よりも選手権に出たい気持ちが強い3年生のために、自分は何もできなかったっていう悔しさがすごくあって。そこから勝ち負けにこだわるようになりました。

――昨年は新潟で主力選手として昇格争いを経験し、チームの勝敗を背負う責任感にさらに変化が生まれたのではないか、と想像します。

 本当にその通りで、昇格できるかできないか、というシビアな戦いを経験して勝ち負けに対する気持ちがすごく強くなったのが自分でも感じられます。その責任は舞台がJ1に移っても背負っていきたいですし、J1でのタイトル獲得に向けてもっとこだわってやっていきたいなって思っています。

――J1昇格を勝ち取り、再びJ1でプレーするようになって2カ月ですが、いくつかの嬉しい再会がありましたね。まずは札幌戦。ルーキー時代の恩師であるミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)との対戦で、ゴールまで決めました。どんな気持ちでした?

 ミシャさんには試合開始前に挨拶させていただいて、「いいプレーしているじゃないか」と言ってもらいました。プロ1年目からお世話になって、自分にはなかったサッカー観というか、こういうサッカーもあるんだなということを教えてもらいましたし、デビューさせてもらった反面、プロの厳しさも味わわせてもらって。本当に大好きな監督で、その人の前で自分がどう成長したのかを示すチャンスだと思っていたので、あのゴールはすごく嬉しかったですね。

慎三さんには「調子に乗んなよ」と

浦和戦では悔しい思いをしたが、チームとして手応えを感じているという。「タイトルを取りたい」と意気込む 【スポーツナビ】

――もうひとつは浦和戦(3月18日の第5節/●1-2)。試合後、「浦和にまたプロとしての厳しさを教えられた」「プロになって一番悔しいゲームだった」と話していたのが印象的でした。

 すごく難しいゲームでしたね。自分はこれまでホーム、アウェイの差を気にしたことがなかったんですけれど、初めてアウェイがすごくやりづらいと感じたのが、あの試合でした。レッズサポーターが作り出す雰囲気は本当に凄いなって、改めて思いましたね。

――かつてのチームメイトと言葉を交わす機会はあったんですか?

 試合前に(興梠)慎三さんや関根(貴大)くんと話す機会があって、慎三さんには「調子に乗んなよ」っていう感じで声をかけられたり、関根くんには「めっちゃ活躍してるじゃん」って言われました(笑)。

――興梠選手はポジションが近いこともあり、浦和時代に背中を追いかけた選手ですよね。そうしたイジりも懐かしいというか。

 そうですね。慎三さんは僕が浦和に加入したときから活躍していて、アドバイスもいただきましたし、プロとしての厳しい言葉もかけていただいて。こうしてまた同じピッチに立って対戦できたのはすごく嬉しかったんですけれど、だからこそ勝ちたかったし、悔しさが大きく残る試合になった。懐かしさ、感慨深さも含めていろいろなことを感じられたゲームでした。

――新潟は今季、6シーズンぶりのJ1を戦っています。どんなシーズンにしたいですか?

 いいスタートを切ったんですけれど、浦和、名古屋グランパス(4月1日の第6節/●1-3)、ヴィッセル神戸(4月9日の第7節/△0-0)と、今季の上位3チームには勝てなかった。ただ、試合をやってみて、結果は負けましたけれど、自信を失ったわけではないし、むしろ手応えを感じたのも事実です。チームとしてはタイトルを狙っていて、個人的にも本当に取れるんじゃないかという手応えを感じていますし、もっともっと強いチームと試合がしたいという気持ちもすごくあって。後半戦では浦和や名古屋にリベンジしたいし、ワクワクした気持ちでいっぱいですね。

――昨季に新潟加入を決める前は、期限付き移籍を延長するのか、完全移籍で浦和を離れるのか悩んだそうですが、今の充実ぶりを見ると、いい決断をしましたね。

 すごく悩んだ末での決断だったんですけれど、J1昇格もできたし、今こうしてJ1ですごく手応えを感じられているので、本当によかったなって思います。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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