工藤公康が考える「良いリリーフ投手」の条件 データで表せない「気持ちの強さ」とは?
リリーフ投手の「気持ちの強さ」とは?
工藤氏が、野球人生で手足の感覚がなくなるほど緊張した登板とは? 【写真は共同】
誰しもが不安や緊張と常に闘っています。私自身も西武時代のリリーフの時に、地に足がつかなかった経験をしたこともあります。1986 年の広島との日本シリーズ第8戦。勝てば日本一が決まる試合で、私はリリーフとして8回から登板しましたが、この時は手足の感覚がないくらいに緊張していました。ボールもコントロールできず、これまでとはまったく違う感覚に陥りました。2つの四球で1アウト1·2塁。自分でもどうしていいか分からなくなり、続く打者に投じたボールも、当然コントロールができず、ど真ん中にストレート。たまたまセンターライナーに打ち取り、セカンドランナーが飛び出していたため、ライナーゲッツーという形でピンチを脱しました。
偶然の結果ではありましたが、この経験がなければ今の自分はないかもしれません。これ以降、この時以上の緊張をマウンドで感じたことはありません。このグラウンドにいる誰よりも、辛く厳しい練習を乗り越えてきた。そういった気持ちや想いが自分自身をマウンドで鼓舞してくれる、支えてくれると気づきました。
マウンドに立てば、自分自身を信じて投げる。誰しもが不安や緊張と隣り合わせだからこそ、自分を奮い立たせてくれるのは自分自身なのです。
リリーフ投手というのは、試合終盤の緊迫した場面やプレッシャーのかかる場面での登板が多くなると思います。平常心で居続けるということは、非常に難しいからこそ、不安や緊張に打ち勝つ自信や経験を練習の時から身につける。そういった経験を通じて心を鍛えていくことも大切なことではないかと、自分自身の経験も踏まえて感じました。
失敗する時もある。常に0点で抑える投手はいない
私自身も山ほど経験してきました。開き直る、切り替えることも非常に大切なことです。ただ何もせずに開き直る、切り替えるのは難しいです。「切り替えよう!」と思ってもなかなかできないことも多いと思います。
大切なのは、開き直る、切り替えるための行動を起こすことだと思います。失敗は誰しも経験します。そこから何を学び、次につなげることができるのか?投手の話で言うならば、その時の登板状況にしっかりと向き合い、要因を分析し、次に同じような状況になった時に打開することができるか? そのために、今できることを一つひとつクリアすることができたか?
開き直る、切り替えるために必要なアクションとは、次の登板までの限られた時間の中で、自分にできることを整理し、思考を止めず、懸命に取り組む。それができれば、もう一度マウンドに上がった時に、自信を持って投げることができると思っています。
自分自身も、初めからこのように考えていたわけではありません。日本シリーズでの手足の感覚がなくなった経験、多くの失敗した経験、勝てずに苦しんだ経験など、そういった経験があるからこそ、そこから多くのことを考え、実行し、学んできました。マウンド上で強い気持ちを持ち、失敗を次に活かすために、心を鍛え、養うことも先発・リリーフを問わず、投手に必要な要素のひとつだと私は思います。