いつか訪れるべきスタジアム「サン・マメス」 アスレティック・ビルバオに受け継がれる哲学

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息を飲む美しさのスタジアム

赤と白を基調としたスタジアムに快晴の空が覗き込む 【スポーツナビ】

 メディアツアー2日目はアスレティック・ビルバオの本拠地「サン・マメス」を訪れた。1913年に建設された初代サン・マメスに代わり2013年に完成したホームスタジアムである。

 スタジアムの外壁には発光素材が用いられており、自由自在に色を灯すことができる。そんな近未来感が漂う外観はもちろんのこと、スタジアムの中に足を踏み入れるとチームカラーの赤と白で統一された観客席の美しさが際立った。

 このスタジアムはスペインで最も熱狂的とも言われるアスレティック・ビルバオのサポーターがつくり出す雰囲気を最大限に活かすためによく練られて建設された。スタンドはできるだけ競技場に近づけ、できるだけ垂直に、また観客席に向かうような角度で設置された屋根は、ファンが発する声援をスタジアム内に留める役割を果たしており、アウェイチームにとっては威圧的な雰囲気を作り出す。一時期はどのようなビッグクラブを相手にしてもホームでは無類の強さを誇ったことから、サン・マメスは“要塞”と称されるようになったが、実際にピッチ脇に立ってみるとその呼び名がとてもしっくりきた。

 選手もサポーターもいないスタジアムにも関わらず感じてしまう熱気とビルバオの快晴の空があいまって、言葉では表現しきれない感動を味わった。

 そして、ツアーが進みスタジアムの隅々まで見ていくうちに、前夜のベラサテギ氏の言葉の意味を肌で感じるようになった。

サッカー界の“大聖堂”を目指すサン・マメス

【Getty Images】

「Cathedral」という言葉がスタジアムツアーの中では何度も発せられた。訳すと「大聖堂」であるが、サン・マメスは単なるサッカースタジアムではなく、クラブの象徴であり、ビルバオという街そのものを体現している。さらにビルバオの枠を越えて、サッカーを愛する人々のアイコンとなることを目指している。

 スタジアム建設にあたってはヨーロッパで最も文化的に豊かな都市の一つであるビルバオの街に、近代的な建築物はそぐわないのではないかという議論もあった。しかし今では世界的にも、街の再生として最も優れた例とも考えられており、グッゲンハイム美術館やイベルドローラ・タワーなど、ビルバオの代表的建築物に並ぶ存在にまでなった。

 近代的なスタジアムで熱いサッカー観戦を楽しみ、美味しい食事を味わい、芸術にも触れる。こうして、サン・マメスはスペイン国内からはもとより海外からの観光客を美食と芸術の街として知られているビルバオへ呼び込むことに大きく貢献するようになった。また、サン・マメス内のレストランやバーラウンジは会議や講演会などにも利用され、ビジネス面でも多くの利用がある。その他にも、様々なスポーツイベントが開催されたりと試合がなくともほぼ毎日ビルバオの人々と繋がっている。

 冒頭でアスレティック・ビルバオは移籍市場において倹約家であると書いたが、充実したアカデミーでの選手育成に始まり、浮いた資金の多くは街の発展や人々の成長を前提に使われている。

 サン・マメスからは「地元と共にある」というアスレティック・ビルバオの哲学がにじみ出ている。まずはビルバオのアイコンとなったこのスタジアムが、この先サッカー界の“大聖堂”となる未来は来るのだろうか?

 一度このスタジアムを訪れた者は、そんな未来を期待せずにはいられなくなる。

(取材・文:草田吉篤/スポーツナビ)

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