最終滑走で臨んだフリー、スタート位置に着いた二人の表情はいつになく硬かった。それでも演技冒頭、高さのあるトリプルツイストリフトを、着氷でややこらえながらも成功させる。しかし、サイドバイサイドのジャンプでミスが出た。3回転トウループ―2回転トウループ―2回転トウループを予定していたコンビネーションでは、三浦のファーストジャンプが2回転になる。また3回転サルコウでは、いつもは安定感抜群の木原が珍しく着氷で手をついてしまった。さらに、スロージャンプの3回転ルッツでは三浦が氷に手をついている。

　しかしミスが出た後、二人は底力をみせた。二つ目のスロージャンプである３回転ループでは三浦が着氷で耐え、リフトやデススパイラルでも魅せていく。何より際立ったのは、一心同体という言葉がぴったりの滑らかなスケーティングだった。演技構成点でも高評価を得たその滑りは、ペアとして世界トップレベルに達していることの証明でもある。

　一体感と伸びやかさのあるそのスケーティングを見て思い出されたのは、村上遥奈とのペアでジュニアグランプリファイナルにも出場している森口澄士が、全日本ジュニア選手権の際に語っていた言葉だ。

「木原龍一くんと三浦璃来ちゃんのペアのように、もっとぐんぐん滑っていけるようなスケートを目指して、一滑り一滑りを大事に滑る練習を、最近は二人とも毎日毎日重ねています」

　三浦/木原がジュニア世代に与えている大きな刺激を、実感させられる一言だった。

　演技を終えた木原は舌を出しながら笑い、天を仰いだ後に両手で軽く頭を叩いている。三浦は「シーズン前半戦での私達の良かった点は、ミスや合わないことがあっても、最後まで笑顔で滑り切れること」だと言う。

「練習の積み重ねが演技の自信に変えられることは、私達の今シーズン前半の成長だと思います」

　その自信の源にあるのは、共に前進し続けるパートナーへの信頼だろう。三浦は、フリーの曲『Atlas: Two』が大好きだという。記者会見でこの歌が特別である理由について問われた三浦は「曲調もそうですし、歌詞も私達の表現したことのない自己犠牲、愛というテーマなので、表現するのもすごく楽しいですし、新しい自分達を表現できるかなというふうに」と説明した後、言葉に詰まった。その様子を見て、木原が後を引き取る。

「今シーズンは三浦選手の怪我があって、お互いいろいろ支え合ってシーズンインをしてきたので、その状況に…ショートもそうなんですけど、フリーもものすごく今シーズンのすべてを表しているなというふうに思えるので、多分それで気に入っているんじゃないかなと思います」

　優勝カップルとしてキスアンドクライで受けたインタビューで、木原は喜びを語っている。

「今日はベストな演技ができなかったんですけれども、日本人チームとして初めて優勝することができて、ものすごく嬉しいですし、お客さんの力に助けられました。ありがとうございました」

　そして三浦は、世界選手権での目標を口にした。

「今シーズンの世界選手権は私達の母国・日本での開催なので、私達のいいところを存分に皆様にお届けできればな、っていうふうに思います」

　三浦が「皆様がとても温かく応援してくれたので、最後まで力を出すことができました」と感謝を述べた後、「言っていいですか？せーの」と木原と声をそろえる。

「Grazie!（ありがとう！）」

　日本のペアとして、イタリア・トリノの地でまた歴史を作った三浦と木原に、私達からも「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたい。