書籍連載:ヤニス~無一文からNBAの頂点へ~

公園で偶然発見された才能 ヤニス~無一文からNBAの頂点へ~

ダブドリ編集部
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NBAを代表するプレーヤーとなったヤニス・アンテトクンポの生い立ちに迫る 【Getty Images】

 スピロス・ヴェリニアティスは、神が語りかけるのが聞こえたと断言する。彼を突き動かしたと。走り回る3人の若い黒人少年の下へと導いたと。ヤニス、コスタス、アレックス(その日サナシスはいなかった)の名前もまだ知らず、彼らが将来バスケットボールのスター選手になることなど知る由もなかった。ただ子供たちが鬼ごっこをしていただけだった。それでも、アテネでコーチをしていたヴェリニアティスは、13歳のヤニスを間近で見て何かを感じたのだと、当時を振り返った。何か神聖なものを感じた。

「こんなことあり得ない」と彼は思った。「神が自分に語りかけている」。

 彼が見たのは、ヤニスの長い手脚、ガンビー(※手足が長い緑の粘土でできたキャラクターで、アニメーションシリーズになっている)のような腕だ。彼が気付いたのは、ヤニスがいくら走り回っても、まるで疲れないことだった。ただ楽しんでいるだけだったが、どこか真剣さや集中力が見え隠れした。

 私はずっと、これを探し求めていたんだ。

 ヴェリニアティスは若きヤニスを発見したことを、馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないが、若きモーツァルトを発見したことに等しいと表現した。実際、馬鹿馬鹿しかった。ヤニスはまだ成長しきってもおらず、ましてやバスケットボールの神童にも天才にもなっていなかったのだ。ヴェリニアティスは話を盛る癖があり、ただ振り返るのではなく再び物語を体験しているかのように誇張する。彼は根っからのストーリーテラーで、これは素晴らしい物語だった。落ちこぼれのコーチが貧しい少年を見つけ、少年は貧困を乗り越え、世界的バスケットボールスターとなる。

 ヴェリニアティスは子供たちのところへ歩み寄った。「どこから来たんだい?」と彼は静かで人見知りそうなヤニスに聞いた。

「ナイジェリア」ヤニスがそう答えたのをヴェリニアティスは思い出す。

「何かスポーツはやってる?」

「やってない」

「ご両親はどんな仕事をしてるの?」

「母さんは色んな人の面倒を見ている。父さんはガレージで働いてる」

 ヴェリニアティスは、この子たちの親が安定した職に就いていないことを察した。セポリアでは、黒人の活躍の場が少ないことを彼は知っていたのだ。「もし君の親に月500ユーロの仕事を見つけてあげたら、僕のためにバスケットボールをしてくれないか?」。

 ヤニスは動きを止めた。弟たちの方を見た。彼らは何を耳にしているのかわけがわからず、黙り込んでしまった。このおじさんは誰? 僕らに何を求めているんだ? しかし数分後、少し躊躇しながらも、ヤニスは半信半疑で合意し、ヴェリニアティスは話ができるように親を公園に連れてくるように伝えた。

「この瞬間、ヤニスは人生最大の決断を下したんだ」とヴェリニアティスは語る。
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著者プロフィール

異例の超ロングインタビューで選手や関係者の本音に迫るバスケ本シリーズ『ダブドリ』。「バスケで『より道』しませんか?」のキャッチコピー通り、プロからストリート、選手からコレクターまでバスケに関わる全ての人がインタビュー対象。TOKYO DIMEオーナーで現役Bリーガーの岡田優介氏による人生相談『ちょっと聞いてよ岡田先生』など、コラムも多数収載。

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