サッカーに”声”が帰ってくる|島田譲

チーム・協会

【ⓒALBIREX NIIGATA】

サッカーに夢見た瞬間

その瞬間はスタジアムの『声』と共にありました。

僕が5歳の頃の出来事です。
茨城県の水戸市で育った僕は、鹿島アントラーズのファンだった従兄弟の両親に連れられて、初めてJリーグを観るために鹿島サッカースタジアムを訪れました。

当時の細かい記憶はほとんどありませんが、鹿島アントラーズが4-2で名古屋グランパスに勝利した事と、後に僕が大好きになったマジーニョ選手(世代的に分からない人は無視してください)がゴールを決めた事は記憶に残っています。

そして試合の結果や内容とは別に、僕の脳裏に鮮明に焼き付いている景色があります。

それは初めてスタジアムに入場し、コンコースから階段を登りきって、客席に出た瞬間に目の前に広がった景色です。

その景色の中にあったのは、初めて見る絨毯のような綺麗な緑色のピッチ、そこでウォーミングアップをする憧れの選手達、そして、選手達を大きな歌声で後押しするサポーターの声でした。

「ハッセー、オーオーオー、オーオーオーハッセー、オーオーオー」

後に僕がアントラーズのユースチームで指導を受ける事になった鹿島アントラーズのレジェンド長谷川祥之さんのチャントを、周りのサポーターの見よう見まねで歌った事を今でも覚えています。

僕はこの日を境にサッカー選手になる事が夢になりました。

僕が夢見たのは、あの景色の中心にいた選手達です。でもあの景色を一段と輝かせ、選手をより憧れの存在のように際立たせていたのは、サポーターの"声"でした。

緑色のピッチで躍動する選手、選手の背中を押すサポーターの声、両者が創り出すスタジアムの強烈な一体感。僕はこの一体感に夢を見ました。

だからこそ、僕の夢にサポーターの声は不可欠でした。

2年半ぶりの声出し応援

【ⓒALBIREX NIIGATA】

そして時は流れ、5歳でサッカーに夢を見た僕は31歳になりました。幸運にもその夢にみた舞台に立つことが出来ています。

2022年8月14日栃木SCとのアウェイゲームで制限付きの声出し応援が解禁され、新型コロナウイルスの影響によって声を出すことが許されなかったスタジアムに、2年半ぶりにサポーターの声が帰ってきました。

「ガキの頃からこの歓声の中でプレーするのが夢だった」

滅多にSNSを投稿しないアルビ生え抜き3年目のGKが、初めてピッチから聞いたサポーターの声援の感動を、興奮気味にSNSに投稿しているのを見て、僕も5歳の頃にJリーグに出会い、サッカー選手を夢見た、あの瞬間を思い出しました。

2年半の間、待ちに待った声出し応援を受けてプレーした僕の率直な感想は、サッカーに、Jリーグに、やっぱりサポーターの声は必要不可欠だと言う事です。

2年半も声のないスタジアムでプレーしていると、どこか物足りなさを感じながらも、それが違和感のない日常になりました。選手間のコミュニケーションも取れるし、監督の指示も聞こえる、拍手だけでも十分にモチベーションは高まるし、プレーする分には全く問題ない。そんな風に声のないスタジアムを正当化しようとしました。

でも久しぶりにピッチからサポーターの声を聞いた時、普段はどんなに感動的な映画を見ても涙を流さない僕の目から熱いものが込み上げてきました。流れてはいません。笑
僕だけではありません。試合後に話を聞くと、多くの選手が「泣きそうだった」「感動した」と口々に話をしていました。やっぱり誰1人泣いたことは認めませんでしたが。笑

とにかく、僕らが子供の頃から夢見ていた景色を久々に見た感動は格別でした。

超非日常を取り戻す

何千何万というサポーターが、自分やチームの為に声を張り上げて応援してくれるという超非日常。僕はその景色の中心でプレーすることが幼い頃からの夢でしたし、その超非日常が病み付きになり、その舞台に立つために血眼になって努力をします。サッカー選手に限らず、多くのアスリートが夜更かしや揚げ物やアルコールという当たり前の日常を我慢出来るのは、あの景色の中心でプレーするという、超非日常の味を知っているからです。


今週から僕たちのホーム、ビッグスワンに遂に声出し応援が帰ってきます。僕はまだビッグスワンでサポーターの声を聞いたことがありません。2年半焦らされた分、アルビの一員として、久々にあの景色の中心で味わう超非日常が待ち遠しくてたまりません。

そして、待ち遠しいのは選手だけではないと思います。声を出して応援してくれるサポーターも、拍手で後押ししてくれるサポーターも、そしてサッカー大好きな子供達も、皆があの景色を観るのを心待ちにしていると思います。

だから、みんなで最高の景色を創りましょう。
選手だけでも、拍手だけでも、生み出せない一体感を創りましょう。
僕が夢を見たあの景色に、皆さんの”声”は不可欠です。

最後に、試験的とはいえスタジアムに声が戻ってくるまでに、ご尽力頂いたJリーグやクラブ関係者をはじめ、地方自治体や医療従事者の方々など、全ての方々に心より感謝します。
皆さんの努力や我慢を無駄にしないように、ルールを守った上で最高の週末にしましょう。
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著者プロフィール

茨城県水戸市出身。 早稲田大学を卒業後、ファジアーノ岡山でプロキャリアをスタート。4年目の契約満了を経て、V・ファーレン長崎に移籍。長崎ではJ1昇格とJ2降格を経験する。 2020年からはアルビレックス新潟に所属。今年でプロ10年目の節目を迎える。 2021年にはアスリート向けのマインドセットプログラム『A-MAP』に参加する。その集大成として、クラブパートナー企業、地域の子供達を巻き込んだ「アルビジョブスク」を発足。新潟の子供達にクラブパートナー企業の職業体験やキャリア教育を行なっている。

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