カタールW杯も見据えるU-21代表の戦い U23アジアカップは単なる通過点ではない

川端暁彦

鈴木唯人を「どこに置くか」で狙いが見える

松木玖生(右から2人目)らドバイカップの優勝メンバーが中心だが、大型FW中島大嘉(左から2人目)のような“新しい風”も加えて今大会に挑む 【スポーツナビ】

 今大会に臨むチームも、そのドバイカップ優勝メンバーが中心となる。

 GKはハイレベルな争いとなっているが、若くして欧州に渡って経験を積んできた小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)が軸となりそうだ。190センチを超える長身と長い手足を生かしたセービング能力は折り紙付きで、さらに足元の技術が高く、ビルドアップにも長けた現代型。アジアには高さで勝負してくる相手も多いだけに、頼りになる存在だ。

 守備陣は大黒柱だったA代表経験者のDF西尾隆矢(セレッソ大阪)が負傷離脱というアクシデントがあり、この穴を埋められるかが1つの焦点となる。カギを握るのは、「驚かされる選手」と大岩監督が形容するDFチェイス・アンリ(シュツットガルト)か。初出場でいきなり先発したドバイカップ決勝では、周囲の心配をよそにサウジアラビアを完封する立役者となり、一気に評価を高めた。軸となるであろう馬場晴也(東京ヴェルディ)は国際経験も豊富で信頼度の高い選手だけに、その相棒選びがポイントだ。

 中盤はドバイカップで主力を務めた藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、同大会を負傷欠場したA代表経験者の松岡大起(清水エスパルス)が中心となりそうだ。注目したいのがMF松木玖生(FC東京)。攻守でタフに戦い、勝負勘にも秀でる高卒ルーキーは、間違いなくキーマンの1人だ。また、技巧派MF山本理仁(東京ヴェルディ)も試合の流れを変えられる選手で、大会を勝ち抜くためには欠かせないタレントだ。

 攻撃陣は、A代表経験者のFW鈴木唯人(清水エスパルス)が柱となる。戦術的柔軟性とボール運びの巧みさを備え、攻守の切り替えで力を発揮できる現代型のアタッカーだ。中央でもサイドでもプレーできる彼を「どこに置くか」で大岩監督の狙いも見えてくる。欧州組のMF斉藤光毅(ロンメル)も同様に複数の役割を柔軟にこなすタイプで、前線の選択肢は多い。

 ストライカーはドバイカップでもJ1リーグでも結果を残している細谷真大(柏レイソル)が第1候補で、藤尾翔太(徳島ヴォルティス)がこれに次ぐ存在だ。大岩監督はドバイを戦ったこの2人とともに、高さと速さを兼ね備え、チームでも結果を出しつつある期待の大型FW中島大嘉(北海道コンサドーレ札幌)も追加招集でメンバーに加えてきた。秘密兵器的な役割を担いそうだ。

A代表にふさわしい選手がいることを示す

U-21代表の当面の目標はパリ五輪だが、A代表を意識するなら、今回のU23アジアカップも単なる通過点ではない。森保監督の目に留まる選手は現れるか 【JFA】

 3月のドバイカップでは、チームとしての戦い方、コンセプトの浸透を図りつつ、大岩監督が「実際に海外での試合に呼んだことで初めて分かる部分は多かった」と言うように、選手の見極めにも時間を費やした。

 外国のチームを相手にしてのプレーぶり、ほとんど練習で合わせる時間がないなかでの戦術理解力や連携プレーを成立させる力といった面はもちろん、海外で生活をしながらパフォーマンスを維持しなければいけない国際大会ならではの適性も把握した。

「食事の様子を見ていても、元気がなくなっていく選手がいるんですね。(身体的な)データも見ながらやっていたので、『このままのペースだと体調を崩してしまうだろう』といった報告が上がってきた選手もいました。それも1つの指標だし、海外に出ないと分からない部分でした」(大岩監督)

 身体的、精神的なタフネス、あるいは異なる環境への適応力といったものは代表選手に求められる素養の1つ。この年代の選手たちはコロナ禍の影響でU-20ワールドカップ(W杯)も中止となり、こうした情報の蓄積もなく、経験によって克服する機会もなくなっていた。それだけに、わずか1回の遠征とはいえ、「ドバイに行けたのは本当に大きかった」と指揮官は話し、また選手たちからも「久々の海外遠征で、移動を含めてやらないといけないことをいろいろと思い出せた」といった声が聞かれた。

 大岩監督はこうした経験を踏まえた選考をしつつも、「代表には新しい風を入れていくことも必要」と語るとおり、さらにチームをブラッシュアップ。中島のようなJリーグで結果を出した選手を新たに加えてU23アジアカップに臨む。

 確かに今大会は、パリ五輪に向けた戦いとしては通過点と言えば、通過点。2年後の五輪を見据えたチーム作りの一環、あるいは選手を見極める場という考え方もあるだろうし、実際にそうした側面は否定しない。ただ、かなりハードな戦いになることが予想される五輪予選の突破を意識しても、「結果」が欲しい大会でもある。

 そして何より、「A代表を経験して五輪に行ってほしいし、森保さんには『いつでも呼んでください』と言ってある」という大岩監督の言葉を汲むならば、ピッチ上のパフォーマンスを通じて「A代表にふさわしい選手がいる」ことを示す必要がある。

 パリ五輪を目指した戦いの始まり——。そんな話だけで終わらせる大会ではあるまい。今年11月開幕のカタールW杯、あるいはそのW杯後に結成される新生A代表を見据えた戦いの場としての意味を、このU23アジアカップは帯びている。

 21歳以下の精鋭で構成された新世代の日本代表は3日にUAE、6日にサウジアラビア、9日にタジキスタンと対戦する。グループステージからタフな連戦になることは確実だろう。そしてだからこそ、ウズベキスタンの首都タシケントを舞台に始まるU23アジアカップは、日本サッカーの未来にとって小さからぬ意味を持つことになるのだ。

(企画・編集/YOJI-GEN)
大会情報
AFC U23アジアカップ2022
グループステージ第1戦
UAE代表 vs 日本代表
6月3日(金)22時キックオフ
DAZN独占配信

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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