砂まみれの名将 野村克也の1140日

エース絶不調もシダックス快進撃 都市対抗でも冴えた野村采配と気遣いとは

加藤弘士(スポーツ報知)
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 就任1年目ながらチームをとりまとめ、社会人野球の年間最大イベント「都市対抗野球」に出場を果たした野村克也率いるシダックス。ここでは野村監督のシダックス監督時代を描いたノンフィクション『砂まみれの名将 野村克也の1140日』より、2003年の都市対抗野球大会でのシダックスの戦い、そして野村監督が「人生最大の後悔」と晩年まで悔いた采配とそこに至るまでの経緯を2回に分けてご紹介します。

【写真は共同】

熱狂の東京ドーム

 休部、廃部が相次ぎ、社会人野球は「冬の時代」を迎えていたはずなのに―。この東京ドームの熱狂は一体、何だ。

 8月23日、野村シダックスが迎える都市対抗の初戦は、優勝候補の一角・トヨタ自動車との勝負だった。

 プロ野球で一時代を築いた名将がアマチュア最高峰の座に挑む。しかも相手は厚い選手層を誇ることから「13番目のプロ」とも呼ばれる、日本屈指の名門企業である。ヤクルト時代の愛弟子・古田敦也を始め、中日のエースを務めた吉見一起、最近では2021年の東京五輪でルーキーながら侍ジャパンの守護神を担った栗林良吏らを輩出している。

 詰めかけた観衆は4万2000人。関係者には「大入り袋」が配られた。プロ野球ならともかく、近年の社会人野球では異例の出来事だった。

 シダックスは一塁側だった。生涯の宿敵・巨人の定位置となるベンチに野村は腰掛けた。セ・リーグのペナントレースはこの日の時点で、2位の巨人は首位・阪神に13・5ゲーム差をつけられ、独走を許していた。

「巨人が弱いから、一塁側は嫌やな。俺は縁起を担ぐ方だから」

 座り慣れない、見慣れない視点を得意の毒ガスでそう表現した。
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著者プロフィール

1974年4月7日、茨城県水戸市生まれ。水戸一高、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。2003年からアマチュア野球担当としてシダックス監督時代の野村克也氏を取材。2009年にはプロ野球楽天担当として再度、野村氏を取材。その後、アマチュア野球キャップ、巨人、西武などの担当記者、野球デスクを経て、2022年3月現在はスポーツ報知デジタル編集デスク。スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める。

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