坂本花織はなぜ大技を回避して銅メダルを獲得できたのか 自らの道を貫いて価値あるメダリストに

沢田聡子

試合で笑顔になるために、飲み込んだ苦しさ

坂本は最高の演技を見せた一方で、本人は4位を覚悟していたという 【Photo by Matthew Stockman/Getty Image】

 フリーの競技が終了し、銅メダルを確定させて上位3人が座るグリーンルームから戻ってきた坂本は、報道陣の祝福の拍手を受けながらミックスゾーンに入り、満面の笑みで「ありがとうございます!」とピースサインをしてみせた。にこにこしながら「お腹空いたよ」と言う坂本は、いつもの天真爛漫さを取り戻している。

「ロシアの子が本番に強いのは分かっていたし、トゥルソワが本番でやってくるのも、もう分かり切っていたこと。(トゥルソワの演技が)終わってからの歓声を聞いて『ああ、やったんだな』っていう感じで。緊張感的には、一昨日のショートよりも団体の時よりも一番落ち着いていたなと思うし、全日本よりも落ち着いていたかもしれないぐらいで、今日はすごくいい緊張感の中でできたなと思っています」

 坂本は自分が4位になると思い込んでおり、上位3人が座るグリーンルームで樋口新葉を見送った際に「すぐ行くね!」と言ったと暴露し、「ほんならすぐ行けなくてびっくり、みたいな」と報道陣を笑わせている。ドーピング問題による心労があったのか、驚くようなミスが相次いだ優勝候補のワリエワについては「正直見るのが辛かったです」と口にした。

「やっぱり団体の時の勢いがイメージであったので、『今日はどうしたんだろうな』という感じで見ていました」

「本当に自分もとことん運いいなってすごく思うし、いろいろな場面でやっぱり救われている部分がたくさんあって、やってきたことが報われる嬉しさもあるし『神様がついてるな』というのもすごく感じます」

 銅メダリストとして臨んだ記者会見で、演技を通して観る人に伝えたかった思いを問われ、坂本は次のように答えている。

「今シーズンはショートとフリーを通し、『スケートを通じて自由や喜びをメインに伝えていこう』とプログラムを滑ってきたので。それをオリンピックという大舞台で、しっかりとショート、フリーで出し切れたのは、すごく嬉しいです」

 また、この結果は坂本のスケートが世界に認められたことを意味するのではないかという質問には「やっぱり、大技がないというのはすごくハンデだし」と言い、言葉を継いだ。

「その中でどうやって戦い抜くかと考えた時に、本当にプログラムの一つひとつを丁寧にやることと、エレメンツの完璧さが求められると思う。それをどの試合でもやり通すというのはすごく難しいことで、練習からやっていないと本番では必ずできないし、練習以上のものは、試合で出ないと思っている。練習でどんなに苦しい想いをしても『試合で笑顔になるためなら、この苦しさを飲み込んでやるしかない』と思って、この4年間やってきた。それがなかなかできなかった年もあったし、正直自分の中ですごく落ち込んだ時期もあったんですけれど、そういう経験も経てここまで上がってこられたというのはすごく自信にもなったし、『諦めずに頑張ってきてよかったな』って思いました」

 坂本の前にミックスゾーンで取材に応じた中野コーチは、高難度ジャンプに挑戦しない決断をしたのは坂本本人だと語っている。坂本は悩みながらも、自分で決めた道をまっすぐに歩いてきた。その道の先に、五輪銅メダルがあったのだ。

 また会見では、坂本が「もうすぐに滑りたい」と発言したことを中野コーチから聞いた質問者が、今後メダリストとして磨いていく部分を坂本に尋ねている。

「目標にしていたノーミスでやり切るというのはできたんですけれど、やっぱりちょっと疲れもあって、今日は(スピードの)セーブをしてしまった。次の世界選手権ではもっともっと迫力を出していきたいなと思っているし、勢いよく自分らしく、今後も滑れたらいいなと思っています」

 自ら決めた道を貫くことでオリンピックのメダリストとなった坂本は、これからも自分らしく滑っていく。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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