「自分らしい滑り」の体現で坂本が銅獲得 個性煌く女子シングルを安藤美姫が総括

C-NAPS編集部

金銀を獲得したROC勢、ワリエワはまさかの4位

金銀のワンツーフィニッシュを飾ったシェルバコワ(写真)とトゥルソワのROC勢。自分たちの持ち味を遺憾なく発揮していた 【写真は共同】

 シェルバコワ選手は、金メダルにふさわしい完璧な演技でした。ロシア選手権ではショートでミスが出たり、調子が上がっていなかったりするなど不安要素がありました。「エリザベータ・トゥクタミシェワ選手とどっちが五輪出場にふさわしいのか」が議論される中できちんと代表入りを果たし、大舞台ではその実力をきちんと見せつけましたね。調整力といいますか、さすが2021年の世界選手権を制した世界チャンピオンだなと思いました。

 4回転も2本に増やしましたし、質が高くGOE(出来栄え点)で加点がつく滑りをしていました。素晴らしいスケーティングを見せてくれていたと思います。また、曲が変わるごとに変化する表情の鋭さや奥深さも素晴らしかったです。リンクの上で自分を見事に表現していたその姿が本当に美しかったですね。

 銀メダルのトゥルソワ選手は、4種類の4回転5本という彼女にしかできない最高難度の構成で挑みました。フリーで177.13点の1位だったことは、本当にカッコいいの一言ですね。きちんとこの舞台で自分の滑りをまとめられるのは精神的に強いですし、絶対に結果を出すという思いが伝わってきましたね。ただ高難易度のジャンプを跳ぶのではなく、後半にも質の高い4回転ジャンプで特に難しいルッツを披露してくれました。異次元の滑りだったと思います。

 私が一番素晴らしいと思ったのは、「ショートでのトリプルアクセルへの挑戦」ですね。自分自身から逃げたくないという精神を持っていて、「どの試合でも挑戦して成功させたい。それが目指すべきところ」と常々語っているように、その考えは五輪の舞台でも変わりませんでした。フリーが強みであるからこそ、ショートで挑戦できるのであり、4回転に対するこれまで培ってきた自信を示していたなと思います。失敗しても挑戦し続けるというアスリートとしてのメンタルが光った滑りでした。

 一方でワリエワ選手はフリーで141.93点の5位で、合計でも224.09点の4位でした。ミスを連発していましたし、本来の彼女の滑りではありませんでした。それができる精神状態ではなかったというのがすべてでしょう。ワリエワ選手に関しては事の顛末がまだはっきりしていないので語れることは少ないのですが、本人にもさまざまな葛藤があったのだと思います。

世界全体のレベル向上を実感した北京五輪

 日本勢や上位陣の滑りはもちろん素晴らしかったのですが、普段は見ることができないさまざまな国の選手の滑りを見られるのも五輪の醍醐味の1つです。若い選手が多い中、何十年ぶりにフリーに進めた選手もいるなど、ベテラン勢の活躍も非常に魅力的でした。

 近年は第1グループでも「3回転+3回転」のコンビネーションジャンプが必須になるなど、競技全体のレベルもかなり上がってきています。こうして五輪で多くの方の注目を浴びているからこそ、フィギュアスケートを世界でもより人気のスポーツにしていきたいですね。多くの感動と発見があった女子シングルはこれで幕を閉じましたが、大舞台で輝きを放った日本人選手のみなさんには、まずは「お疲れ様でした。それぞれ自分らしい素敵な演技を見せてくれてありがとう」と伝えたいです。

安藤美姫(あんどうみき)

【写真:本人提供】

1987年12月18日生まれ、愛知県出身。8歳でスケートを始めるとすぐに頭角を現し、2001〜2003年に全日本ジュニア選手権大会で優勝。2002年にISUジュニアグランプリファイナルにおいて、女子選手としては初の4回転ジャンプを成功させ話題となった。2007年、2011年の世界選手権で優勝。2006年のトリノ、10年のバンクーバーと2大会続けて五輪に出場した。現在はプロスケーター、振付師として活躍している。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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