サウジとの「静かなる総力戦」に勝利 埼スタでの首位決戦を制したピッチ外での勝因

宇都宮徹壱

埼スタでの2試合は「静かなる総力戦」であった

試合後の会見で日本代表の森保一監督は「これが海外だったら、違った結果になっていたかもしれない」とコメント 【宇都宮徹壱】

「今日は厳しい試合だった。とはいえ、最終予選が始まる前から3チームの争いになることは予想できていた。状況としては2018年大会の予選と同じだが、われわれはまだ首位だ。(予選通過となる)2位以内となるには、まだ2試合ある」

 サウジ代表を率いる、エルベル・ルナール監督の試合後のコメントである。昨年9月から始まった最終予選も、これで残すところ2試合。日本は3月24日にシドニーでオーストラリアと、そして29日に埼スタでベトナムと対戦する。一方、オーストラリアの最後の試合は、ジェッダでのサウジ戦。日程面では日本が断然有利であり、早ければ次節にも日本のW杯出場が決まる。

 今回のホーム2連戦で日本は、これまでになく充実した試合内容を披露してくれた。MVPは文句なしで伊東だが、谷口と板倉の新センターバックコンビがしっかり機能し、中盤では守田と田中と遠藤が存在感を発揮。中国戦で精彩を欠いていた長友と南野も、このサウジ戦で「らしさ」を取り戻した。彼らへの評価は他の記事に譲ることにして、ここではピッチ外での勝因について言及しておきたい。

「コロナ禍で国内での開催が難しい中、たくさん方々にご尽力をいただき、ホームで戦うことができました。これが海外だったら、違った結果になっていたかもしれない。日本での開催に尽力してくれた、関係者の皆さんに感謝したいと思います」

 ある意味「定形」とも言える、森保監督のコメント。だが、今回の埼スタでの2試合に関して言えば、極めて重要な意味を持つ。中国とサウジの入国が認められたのは1月7日。オミクロン株の水際対策強化により、日本政府は外国人の新規入国を原則停止としていたが、今回のW杯予選に関しては「公益性と緊急性を考慮して」日本でのホームゲームが可能となった。政府との難しい交渉に当たった、JFA関係者は「影のMVP」と言っても過言ではないだろう。

 それからもうひとつ、観客のマナーの良さについても評価したい。見事なゴールが決まって、思わず「おおっ」と声が挙がることはあっても、オーストラリア戦のようなルール破りのチャントが聞こえることはなかった。手拍子のみによる応援スタイルは、確実に代表戦でも定着しつつある。ジェッダでのアウェー戦とは対照的に、埼スタでの2試合は、まさに「静かなる総力戦」と呼べるものであった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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