サウジとの「静かなる総力戦」に勝利 埼スタでの首位決戦を制したピッチ外での勝因

宇都宮徹壱

日本有利の条件がそろっていたサウジアラビア戦

サウジアラビアとの首位決戦が開催された埼玉スタジアム2002。中国戦で精彩を欠いた長友佑都はこの日もスタメン 【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)・アジア最予選、日本がサウジアラビアとの首位決戦を制した翌朝、さらなる朗報がもたされた。2位の日本を1ポイント差で追いかけていたオーストラリアが、オマーンとのアウェー戦に2-2と引き分けたのだ。しかも、オマーンの同点ゴールは後半44分でのPKによるもの。これで日本との勝ち点差が3に開いてしまったのだから、オーストラリアとしてはまさに痛恨の失点であった。

 あらためて、2月1日に埼玉スタジアム2002で行われた首位決戦を振り返ることにしたい。グループ首位のサウジには、昨年10月8日にジェッダで行われたアウェー戦で、0-1で敗れている。結果と同じくらい衝撃的だったのが、5万人以上の観客が作り出す、キング・アブドゥラ・スポーツシティの熱狂。この頃、オーストラリアや中国のホームゲームは、中立地での無観客で行われていた。そんな中、サウジは国を挙げての総力戦で、ホームでの日本戦に臨んだのである。

 その後もサウジは順調にポイントを積み重ねて、6勝1分け0敗の勝ち点19としていた。勝ち点15で2位につけている日本とは4ポイント差。この直接対決で勝ち点3を加えれば、2試合を残してカタールへの切符を手にすることになる。ただしアウェーの首位決戦は、むしろ日本に有利な条件ばかりがそろっていた。

 まず戦績。日本はホームでのサウジ戦で、5戦5勝と圧倒している。加えて、日本はホーム2連戦で、先の中国戦から中4日。対するサウジは、ホームでオマーンと対戦して中3日のアウェー戦である。そもそも勝ち点差4なので、サウジは敗れても首位の座を明け渡すことはない。攻撃の主力選手をケガで欠いていることも考えると、彼らの中で「引き分けでも良し」という意識が働くことは十分に予想された。

 日本に不安要素があるとしたら、吉田麻也と冨安健洋のセンターバックコンビを欠いていること。だが、先の中国戦で彼らの不在を感じさせるシーンはほとんどなかった。また、中国戦からメンバーを「基本的に代えることはない」と明言した、森保一監督の采配を疑問視する声もないわけではない。逆に言えば、それ以外の不安要素がほとんどなかったのが、この日の日本代表であった。

南野の最終予選初ゴール、そして伊東の4試合連続ゴール

伊東純也(中央)は1ゴール1アシストと大活躍。長友(左)も攻守にわたって躍動し、勝利に貢献した 【写真:ロイター/アフロ】

 サウジ戦に臨む、日本代表のスターティングイレブンは以下の通り。

 GK権田修一。DFは右から、酒井宏樹、谷口彰悟、板倉滉、長友佑都。中盤は、アンカーにキャプテンの遠藤航、インサイドの右に田中碧、左に守田英正。FWは右に伊東純也、左に南野拓実、中央に大迫勇也。先の中国戦とまったく同じ布陣と顔ぶれである。中国戦を含む最終予選のパフォーマンスから、長友や南野への当たりが強まる中、それでも指揮官が彼らに寄せる信頼に揺るぎはなかった。

 序盤、大迫が立て続けにファウルを受ける。明らかに狙われている印象。しかし、手痛いアクシデントを被ったのはサウジの方だった。16分、アブドゥレラー・アルマルキが、伊東と接触した際に声を挙げて倒れ込み、そのまま交代となってしまう。おそらく筋肉系の故障だろう。長距離移動や日程の厳しさ以上に、本国との極端な気温差がダメージを与えているのは間違いない。4日前に試合を行った、ジェッダの気温は最低でも20度くらい。この日の埼玉の気温は4度だった。

 それでもサウジの選手たちが、ようやく寒さに順応してきた前半32分、彼らの戦意をくじくような日本の先制点が決まる。酒井の長い縦パスを受けた伊東が、右サイドで一気に加速して相手DFを振り切り、低いクロスを供給。これを大迫がスルーすると、南野が得意の形に持ち込んで左足でネットを揺らした。ジェッダでの試合では、累積警告で出場できなかった伊東。当然、サウジはチェックしていただろうが、想定していた以上のスピードだったようだ。

 エンドが替わった後半5分でも、伊東はさらなる輝きを放つ。相手陣内で遠藤がボール奪取。南野が左に流すと、長友が相手との球際を制してクロスを入れ、伊東が胸トラップから右足を振り抜く。これが4試合連続となる、伊東のゴラッソは確かに素晴らしかった。けれども、長友の球際でのすごみもまた、十分に見応えのあるものであった。

 後半23分、左サイドを中山雄太に託して、長友はベンチに下がる。最終予選でようやく初ゴールを挙げた南野も、その10分後に浅野拓磨と交代。どちらもいい表情でピッチをあとにしたのが印象的だった。そのまま2-0で日本が勝利。順位に変動はなかったものの、遠かったサウジの背中に1ポイント差まで迫ったという意味でも、日本にとっては申し分のないホーム2連戦であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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