変革の波が訪れる高校野球 球児主体の「プレゼン甲子園」が果たす役割は?

中島大輔

あえて試合に出ていない1年生を選出

プレゼン甲子園2022の出場校は13校。1チーム10分程度のプレゼン発表を行い、視聴者の質問に答えて行く 【写真提供:桜丘高等学校】

 同様の傾向は、広島の武田にもあるという。もともと寮生活を送る生徒が多いなか、独特のアプローチでプロ野球選手まで輩出した実績や考え方が支持され、有名チームを含めて全国から選手がやって来ている。

 そこで今回、プレゼン甲子園のテーマに選んだのが「ガイジン部隊」だ。野球留学生を揶揄(やゆ)した表現だが、武田は現在、3年生も含めた部員99人のうち21人が県外から来ている。岡嵜雄介監督が言う。

「『ガイジン部隊』という表現を使うのは、自分で高校野球をやっていない人だと思います。多くの学校では特待を受けた生徒だと思いますが、うちに野球特待生はいません。それでも県外から来ている部員自身が、このテーマを語る。なかなかない試みなので、面白くなると思います」

 プレゼン甲子園のようにチームを外に向けて語る場合はキャプテンやエース、主力が表に出る機会が多くなりやすいが、武田ではあえて試合に出ていない1年生を選出した。その意図を岡嵜監督が説明する。

「準備したことを人前で話して、失敗してもいい。結局、それは彼らのプラスになります。プレゼン甲子園という舞台をお借りして、チャレンジさせようという試みです。誰が出るかはコーチングスタッフで話し合い、その過程も録音して選手たちに聴かせました。うちでは普段から、音声を録音してやりとりしています。選手たちには、野球だけを見られているわけではないこともわかってほしい」
 

「プレゼン甲子園」が果たす役割

「コロナ禍で、各学校が部活に対して気持ちを向け続けるイベントになればと思って企画しました」と主催の中野優先生が話してくれた 【画像:スポーツナビ】

 令和の今、社会で重視される価値として「透明性」や「共有」がある。YouTubeやSNSというテクノロジーをうまく活用し、自身の成長につなげている選手は多い。とりわけデジタルネーティブの高校生にとって、ごく自然のアプローチだろう。

 対して、高校野球には古い価値観が根強く残っている。その象徴が、今春のセンバツで物議を醸した東海地区の選考だったように感じる。

 昨秋の東海大会で準優勝した聖隷クリストファーが落選し、4強の大垣日大を選出したことについて、「どちらが甲子園で勝つ可能性が高いかを基準に判断した」という選考委員長の説明にはメディアやファンから多くの反発が起こった。密室で議論され、十分な客観的理由が開示されなかったからだろう。静岡県から2つの代表を選出するのではなく、1枠を岐阜に譲った形になり、主催者である新聞社の販促につなげる意図を邪推されても仕方ない。

 選手の育成が二の次となり、“甲子園至上主義”が令和になっても幅を利かせるのが高校野球の実情だ。そうした風潮が運営サイドから感じられるだけに、勝利に加えて自身のアイデンティティーも追求するチームが「プレゼン甲子園」でその価値を発信しようという取り組みには大きな意義があるように感じられる。

 時代が猛烈なスピードで移り変わり、あらゆる社会領域でダイバーシティやSDGsが不可欠となってきた。現場から湧き上がる新しい価値観は、果たして高校野球という日本伝統の文化にどこまで浸透していくのだろうか。

 そうした意味においても、「プレゼン甲子園」が果たす役割は決して小さくない。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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