連載:プロ野球選手の「攻略本」

“読みと度胸”が試される柳田悠岐の攻略法 アナリストが導いた紙一重の配球とは?

パ・リーグはもちろん球界を代表する大打者である福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐 【写真は共同】

 NPBでトップを走る選手たちをデータから徹底検証。その中で見つけた選手の長所と攻略法を当連載「プロ野球選手の攻略本」にて紹介する。今季はこの「プロ野球選手の攻略本」を手元に置いて、アナリストの気分で観戦を楽しんでみてはいかがだろうか。第4回となる今回はソフトバンク・柳田悠岐の攻略法に触れていく。

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2012〜21年パ・リーグ:OPSランキング

【データ提供:データスタジアム】

 トリプルスリーを達成するなど、2015年に大ブレークを果たした柳田。その後もMVPをはじめとする数々のタイトルを獲得し、スーパースターへの階段を駆け上がっていった。

 総合的な打撃力を表すOPSを見ても、柳田は1.000超えを4度も記録するなど、15年から20年にかけて規定打席に到達したすべてのシーズンでリーグトップの数字を残してきた。パ・リーグではここ10年で1.000を超えた選手はほかにいないだけに、柳田がいかに突出した存在だったかがわかる。昨季こそオリックス・吉田正にトップの座を譲ったが、それでもリーグ3位の.929と球界を代表する強打者であることに疑いの余地はない。

 では、ここからはそんな柳田をどのように攻略するのか考えていきたい。そのヒントとなるのが、インコースだ。

2021年:内角投球数別の打撃成績

【データ提供:データスタジアム】

 昨季は自身7度目のシーズン打率.300をクリアした柳田。特に内角を全く攻められなかった打席では打率.400と抜群の成績を残しており、内角を使わずに抑えることは極めて困難だった。強打者との対戦においてはインコースを使えるか否かがキーとして挙げられることが多いが、柳田の場合も内角の有無がその後の結果を大きく左右している。

 そして柳田を打ち取る確率を上げるためには、もうひとつ押さえておきたいポイントがある。それが内角は1球だけでなく、2球以上見せることでその効果がより大きくなるという点だ。1球だけの場合でも打率.269と成績を落としているが、2球以上の場合は打率.214とさらにその数字が下がる。またバットに当たる確率も悪化する傾向にあり、結果として打席数に占める三振の割合は29.6%まで上昇。打撃の確実性も欠く結果となっていた。

 しかしインコースに弱点があると分かってはいても、カウントによってキャッチャーが要求しづらい場面もあれば、内角を見せる前に決着をつけられてしまう場面もあるだろう。バッテリーとしては、そのような展開になってしまう前に1球でも内角を見せておきたいところだ。

2021年:内角・高低別コンタクト率

【データ提供:データスタジアム】

 では具体的に内角のどこが攻めどころになるのか。一般的には、アウトローの対角線上にあたるインハイが中心となるだろう。しかし柳田の場合はインハイのコンタクト率が86.9%とバットに当てられる可能性が高く、持ち前のパワーで長打にされてしまう危険がある。見せ球としてインハイのボール球を投じるのは有効であっても、ストライクが欲しい場面で投げるコースとしてはリスクが高い。

 そこで狙い目となるのがインローだ。もともとどの打者も空振りが多くなりやすいゾーンではあるが、特に柳田はコンタクト率が両リーグの規定打席到達者で唯一50%を切っており、スイングをしても2回に1回は空振りしていることになる。内角を意識させる上で必ずしもストライクを取る必要はないが、見逃しや空振りによってカウントでも優位な状況を生み出せれば、それはバッテリーにとって理想的な展開といえるだろう。

 また、バットに当てられた場合にどうなるのかも触れておこう。打者の長打力を測る指標として、長打率から打率を引いたISOがある。柳田のISOをゾーン別に見てみると、インハイの.224に対してインローは.070。規格外のパワーを誇る柳田だが、インローはほとんど長打にできていないのだ。バットに当てられる可能性が低く、前に飛ばされても長打になりにくいこのゾーンは、インコースを見せる、あるいはインコースで勝負するという際に優先度の高い選択肢となるはずだ。
 インコースはコントロールミスが致命傷となりやすいゾーンなだけに、相手が強打者であればあるほど、要求するキャッチャーにとっても投げ込むピッチャーにとっても勇気がいる選択だ。しかし投げきることさえできれば、球界屈指のスラッガーであっても抑える道筋は見えてくるだろう。いかに内角を意識させ、柳田本来の打撃を崩せるか。バッテリーの読みと度胸が試される。

 その一方で、柳田にも常に相手チームからの厳しいマークを受けながら結果を残してきた実績がある。それは自らの弱点や相手の攻め方を理解した上で、それを克服してきた証しだろう。今季の柳田は相手バッテリーの配球に対してどのようなアプローチを見せるのか。打席に立った際にはインコースを巡る攻防に注目してほしい。
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