“ポスト白鵬”時代を担うのは? 11月場所で輝く力士たち

飯塚さき
 2年ぶりに福岡での開催が実現した、大相撲11月場所。九州の地に冬の訪れを告げる風物詩が戻り、地元もにぎわっている。

 今場所は、大横綱・白鵬が土俵を去って初めての場所。一人横綱となった照ノ富士をはじめ、今後の角界をリードしていくのはどんな力士たちだろうか。場所の前半戦を振り返りながら、期待の力士を5名紹介する。(成績は11月21日終了時点)

照ノ富士、唯一無二の横綱に

強さに加え、うまさ、落ち着き、安定感とすべての要素が完璧にそろう一人横綱・照ノ富士。「ポスト白鵬」というよりも、「横綱・照ノ富士」として唯一無二の存在が期待される 【写真は共同】

 白鵬の不在を埋めるのは、なんといっても一人横綱の照ノ富士だろう。今場所もここまで全勝。実に横綱らしい落ち着いた相撲で、日々の土俵を締めてくれている。

 ご存じの読者も多いと思うが、念のためここで照ノ富士の波乱万丈な土俵人生を簡単にまとめておこう。23歳の若さで初優勝、大関に昇進するも、両ひざの大ケガと糖尿病などの内臓疾患により、大関から序二段にまで番付を落とした。奈落の底から這い上がってきたのは、2019年3月場所。順調に番付を戻すと、20年7月場所で復活の幕尻優勝。今年の5月場所で大関の地位に返り咲き、7月場所後に横綱へ昇進。先の9月場所では、新横綱として初優勝を飾った。涙なしには語れない、角界最大の復活劇を演じた横綱である。

 特筆すべきは、最初の大関時代と現在との相撲内容の違い。以前は、力任せの豪快な相撲が多かったが、現在は力に頼ることなく、非常に緻密な相撲を取っている。今場所は特に、相手に相撲を取らせ、不利な体勢になったとしても盛り返して勝つという、まさに「横綱相撲」も見られた。強さに加え、相撲のうまさ、落ち着き、安定感とすべての要素が完璧にそろっており、心技体を究極に磨いてきたことがうかがえる。

「ポスト白鵬」というよりも、「横綱・照ノ富士」個人として、彼らしい横綱像を追い求めてほしいし、きっとこれから唯一無二の素晴らしい横綱になっていってくれることと期待している。

実力派大関・貴景勝、横綱を目指す

突き押し相撲で上を目指すのは無謀と言われながらも、自らのスタイルを磨き続けて大関の座にまで上り詰めた貴景勝(写真左)。実力派大関は「一生懸命横綱を目指す」ときっぱり 【写真は共同】

 一人横綱の背中を追いかけるのは、突き押し相撲を貫く大関・貴景勝。“まだ”25歳の若き大関と筆者は思っているが、場所前に本人に聞くと「今までずっと焦ってやってきました。自分には“まだ”時間があると思ったことはないです」と、きっぱり返ってくる。「18歳で入門して、ここまであっという間でした。もう一回それをやったら次は32歳なわけですから、時間はないと思いますね」だそうだ。彼のこんな精神面に魅せられているファンも多いことだろう。

 土俵上での彼は、アマチュアの頃から一貫した突き押し相撲。一般的に安定感がないとされる突き押し相撲で、上を目指すのは無謀と言われながらも、自らのスタイルを磨き続けて大関の座にまで上り詰めた。5歳年上の照ノ富士をして「貴景勝は根性が違うよ。尊敬している」と言わしめる、誰もが認める実力派の大関だ。

 2場所前に首を痛めて途中休場し、先場所もなんとか8勝。ケガの影響が案じられていたが、そんな懸念を吹き飛ばすように、相手を寄せつけない貴景勝らしい突き押し相撲で、今場所を沸かせてくれている。11月場所は、彼にとって過去2度の幕内優勝を果たした縁のある場所。実力はもちろん、運も味方につけて、場所前に語ってくれた「一生懸命横綱を目指したいなと思います」、その言葉を現実のものとしてほしい。

やんちゃから大人へ――新生・阿炎

やんちゃで天真爛漫だった阿炎(写真左)も3場所の出場停止を経て、びっくりするくらい大人の雰囲気で幕内に戻ってきた。今場所は優勝候補の一角に挙がるほど堂々とした取組を見せる 【写真は共同】

 照ノ富士一択と思われた優勝候補者リストに、貴景勝を含め、筆者は次に彼の名を連ねたい。3場所の出場停止を経て、およそ1年ぶりに幕内に帰ってきた阿炎だ。やんちゃで天真爛漫だった彼だが、半年間で心身を改めたよう。場所前の電話取材で、「今は新しい一歩だと思っています」と話した阿炎。かけた相手を間違えたのかと思うほど、大人びた声に驚かされたものだ。

 阿炎の武器は、長い手足を生かしたリーチの長い突っ張り。師匠である元関脇・寺尾の錣山親方も、現役時代は突っ張りでならした。その師匠から指導を受けた突っ張りは、リーチが長いだけでなく回転数が多く、相手を決して中に入らせない。今場所は、久しぶりの幕内で、堂々とした相撲を取っている。会心の相撲でここまで7勝1敗。前頭15枚目ながら、このままいけば上位との対戦もあり得るだろう。

 5つも年上の筆者を「さきちゃーん!」と呼んでくれる、可愛らしい彼はもういない。一抹の寂しさと感慨深さが入り混じった不思議な感情を抱いているが、力士としての新生・阿炎には大きく期待している。自身最高位の小結を越えて、大関にまで駆け上がっていく姿も、かなり現実的に想像できてしまうのだ。この調子で自分の相撲を取り続け、平幕力士の存在感を存分に見せつけてくれるか。

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著者プロフィール

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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