車いすバスケ“うれし悔しい”銀メダル 土台の上にあった覚醒、3年後は頂点へ

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「プリティイージー」から、ここまで王者を追い詰めた

この日は涙を飲む結果となったが、確かに日本の選手たちのプレーはアメリカを追い詰めていた 【写真は共同】

 試合終了後に米国の選手たちは、コート上で抱き合って大はしゃぎで喜び、タフなゲームを制した安堵を全身で示していた。その喜び方こそが、日本が米国を追い詰めた証しだ。

 京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は試合後、米国の選手をじっと見つめており、その心境を聞かれるとこう答えた。

「聞いた話ですが、(開幕直前に)米国とトレーニングマッチをした後に、どこかの(国の)選手が『日本との練習試合どうだった?』と聞き、『プリティ・イージー(楽勝だよ)』なんて言ってたらしい。そこから僕の中で、ちょっとムカついていました(笑)。いつか対戦したら、一泡吹かせてやろうと思っていた。勝ちたかったですが、今できる最大限の力は出せたと思います」

 日本は今大会、一心という合言葉の下、「トランジションバスケ」「ディフェンスで世界に勝つ」を掲げ、ファイナル4(準決勝以上)で1勝を目標に続けてきた。その目標は達成したかもしれない。しかし、多くの選手や京谷HCのコメントからは、うれしさの裏に悔しさがにじみ出ていた。

 東京パラリンピック開幕前の時点で、日本が銀メダルをつかむという現実を想像していたら、喜びが100%を占めたかもしれない。しかし、1試合ごとに成長し強くなっていった日本は、いつしか決勝で勝つことが現実的な目標になった。「悔しさ」が残る銀メダルになったのは、それだけ真剣に頂点を狙えるレベルへと、確かにたどり着いたことを意味している。

「覚醒の11日間」に必要だった、長い道のり

「覚醒の11日間」を経て、ここからは金メダルを目指すための戦いが始まる 【写真は共同】

 そして、日本がこの東京パラリンピックの11日間で覚醒した理由には、“日本のバスケット”の質を高めるために築いた土台、長い道のりがあった。

「ここまで10年かかりました。HC、アシスタントコーチ(AC)の入れ替わりはたくさんありましたが、僕たちが幸せだったのは、みな同じ気持ちで同じ方向性のバスケットを目指していたことでした。僕たちは迷うことなく、東京(パラリンピック)を迎えられました」

 HCやAC、そして代表のメンバーが変わっても、同じ方向を見続けたからこそ築かれた強みがある。藤本が試合後にコメントした通り、“日本のバスケット”の質を高め続け、それが花開いたのが東京パラリンピックだった。

 豊島英がキャプテンを務め、藤本、香西らベテランを土台に鳥海、古沢拓也、赤石竜我と、若手の躍進が光った今大会の日本。これからは、鳥海ら若手を中心としたチーム編成に変わるかもしれない。それでも、これが日本のバスケットだというのを確立した今、メンバーが変わってもやっていくことは変わらないだろう。

 ファイナル4で1勝という目標を達成し、これより上の結果は金メダルしかない。決勝戦は、日本にとって未知の領域であり、米国とは経験の違いが出た「4点」だったかもしれない。チーム力という点では、全体を通して差はなかった。

 あと一歩届かなかった表彰台の真ん中、“うれし悔しい”気持ちはこれで十分。銀メダルを取ったからこそ、次の目標は金メダルと堂々と言える。ここから日本は、頂点を目指す新しい戦いが始まる。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)

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