金メダルへ、車いすラグビー見どころは? 廣瀬俊朗×三阪洋行 ラグビー対談

宮崎恵理

金メダル獲得へ。ポイントは初戦の戦い方

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――東京パラリンピックでカギになる試合は、どの試合でしょうか。

廣瀬 1年半、コロナ禍で世界中どの国も国際大会ができていません。そういった中で行われるパラリンピックでは、やはり初戦が非常に重要になると思います。だから、予選リーグ第1戦となるフランス戦ですね。

三阪 15人制のW杯でも、やはり初戦は重要ですか。

廣瀬 大事ですね。すごく不安の中で開幕戦を迎えるので、そこでどれだけ自分たちのやってきたことの手応えを実感できるかどうかが、その後を左右します。出鼻を挫かれると、精神的にもとてもきつい。それは相手にとっても同じです。コロナ禍でひたすら練習してきたことが間違ってなかったという感覚を、初戦で掴(つか)めるかが、カギになると思いますね。

三阪 どの国も、池崎や池といったハイポインターを絶対にマークしてくるし、同じようにその国のエースが存在しますよね。でも、先ほどの倉橋の例ではありませんが、ローポインターの活躍がすごく重要になってくると思うんです。そこを、ぜひ見てほしいと思いますね。

廣瀬 コートの中でここにローポインターがいることで、相手エースの行く手を阻んでいるのか、という驚きが試合中に見られるよね。

三阪 どの選手にも言えることなんだけど、車いすラグビーはすごく役割が明確で、プレーの一つひとつに“多様性”というメッセージが表現されていると思うんです。橋本のように生まれつき手足に障害があるというような選手もいれば、僕のように事故などで障害を負った選手もいる。車いすラグビーに出会ったことで、橋本もすごく成長してるんですよ。その姿をコートで見せることで、障害のある子供たちに新しいメッセージが届けられる。そういった部分にも、注目して欲しいと思いますね。

――2015年の15人制ラグビーでは日本代表のHCがエディー・ジョーンズ氏でした。リオ以降、車いすラグビーのHCにはアメリカ人のケビン・オアー氏が就任されています。外国人HCのもとでの日本チームの成長など、どのように感じられていますか。

三阪 リオパラリンピックでは、ケビンさんがHCだったカナダに勝って日本は銅メダルを獲得したんですが、ケビンさんが就任後に「私なら、日本に必ず金メダルを獲得させる」って言ったんですよ。実際に、2年後には世界一に導いたのですから、その手腕はすごいと感じています。ケビンさんは日本の文化を尊重してくれて、日本語の勉強もする。日本に寄り添いながら、日本人の良さをどのようにプレーに落とし込むかを考えてくれるんですね。それが、成功している理由なのではないかと感じています。

廣瀬 自分たち選手が当たり前にやっていることや、自覚していないことを、外からの視点として指摘してくれる。長所についても、また改善すべき課題についても、そういった新しい発見がありましたね。

三阪 そういったケビンHCと迎える東京パラリンピックでの日本の戦い方は、本当に楽しみですよ。

大会の意義を感じながら最高のパフォーマンスを

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――まもなく開幕する東京パラリンピックに期待することは、どんなことでしょうか。

三阪 東京オリンピックでもたくさんの日本人選手が活躍しています。リオパラリンピックでは、日本は金メダルゼロでした。河合純一日本選手団団長が掲げている金メダル20個という目標に向かうアスリートの姿を、さまざまな競技で楽しんでほしいと思いますね。

廣瀬 出場する選手には、結果にとらわれずに自分の最高のパフォーマンスを発揮してほしいと思っています。日本で、東京で開催されるパラリンピックに代表選手として出場できる。それ自体が奇跡のようなことです。そこに居合わせられる幸せを存分に満喫してほしい。

三阪 まずは、車いすラグビーでも、そのスポーツ、ゲームそのものを楽しんでもらうことが一番です。その上で、出場している選手の1人ひとりにそれぞれのドラマがあるという背景を知ってもらえると、より深くパラリンピックを理解できるのではないかと思いますね。

廣瀬 そう、まずはプレーする選手の姿を、僕らは純粋に楽しみたい。でも、よく見ると、その選手は視覚障害だったり、車いすを使っていたりする。どうやってその人は、このプレーをするために練習を重ねてきたのか、ということに思いを馳(は)せて欲しいですね。例えば、自宅にいてトイレに行く時に目をつぶってみると、トイレに行くだけでも結構障害物があったり、時間がかかったりすることに気づくかもしれません。

三阪 僕自身、ラグビーのプレー中の事故で頸髄(けいずい)を損傷したわけですが、今思うのは、健常者とは同じ動きができないけれども、車いすラグビーというスポーツに出会って取り組む過程で、障害を受け入れてきたところがあります。人生の途中で障害を負っても、そこから目指せる新しい世界が存在し、大きな価値がある。オリンピックとパラリンピックは、同じ世界最高峰のスポーツの祭典ですが、あえてその2つを分けて開催することで、それぞれの価値を象徴している。パラリンピックの意義を、東京大会でぜひ感じてほしいと思っています。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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